モカちゃんから借りた白地に淡いピンクの桜柄という可愛らしい浴衣をお母さんに着せてもらった私は、先輩が迎えに来てくれるのを今か今かと待っていた。
大貴先輩似合うのは終業式の日以来だ。久々と言うだけあってか、胸が早く音を立てる。
純粋に、素直に楽しみで仕方ない。早く先輩に会いたい。そんな気持ちで私の胸はいっぱいだった。
ぼうっと宙を眺めていた私の元に一通のラインが届いた。どうやらもう着いたらしい。慌てて巾着にスマホを入れ、「行ってきます!」と部屋の奥にいるお母さんに言い残し自宅を後にした。
なぜか先輩は私の自宅の相向かいにある圭人の自宅の前に立ち尽くしていた。その指先へ視線を向けると、どうやら既にインターホンを押した後だったらしい。
言いかけた途端、玄関の扉が少し開き中から圭人が顔を出した。どうやら家には彼しか居ない上、今さっきまで寝ていたようでその頭は爆発を受けたかのようにボサボサになっていた。
気まずさに耐えきれず、先輩の代わりに「ごめんね」と告げ先輩を連れ出した。
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人混みに紛れながらも大貴先輩の背中を追って歩く。もしもこれが少女漫画や恋愛小説なら、大貴先輩はきっと気を遣って手を差し伸べてくれるだろうに。
そんな淡い期待を抱いても仕方が無い。小さくため息を零しながらも必死に彼に付いて歩いた。
手………繋ぎたいな。彼の隣に立った私はそっと彼の裾を握ってみる。
ねぇ、先輩……気付いてくれませんか?
突然呼びかけられ思わず肩が竦んだ。どうやら服を引っ張った事に気付いたようで、先輩は何気ない表情を浮かべながら「どうしたの?」と首を傾げた。
―――先輩と手……繋ぎたいんです。
って、そんな事口にしたら嫌われちゃうかな?
ドキドキと弾む心臓が私の冷静な思考を掻き乱す。私、どうしたらいいのだろう。正常な判断がままならない―――。
そう言って先輩は私に背を向け、再び足を前へと進めた。その背中を慌てて追いかけながらも私の心の中は彼の事で頭がいっぱいだった。
何でもないなんて、とっさに口にしてみたけれど………本当はそうじゃないんです。先輩、どうか私の胸に秘めた気持ちに気づいて下さい。私、私―――……。
“ア ナ タ”
本当は大貴先輩と手を繋ぎたいんです。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。