手放してしまった。
あんなに欲しい欲しいと願っていた彼女を。
俺からどんどん離れていく幼馴染みの後ろ姿を、俺は涙を流したままぼう然と見送った。
たった一日だけと言う願いすら叶えてくれないのだから。
去っていく君の小さな背中に一言呟いた。
君は、俺の何を知ってくれたの?と。
答えが返ってくる事はもちろんなかった。
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―――少しここでネタバラシだ。
なんて、こんな負け犬の言い訳に一体どこの誰が耳を傾けるのだろうか。
自分で口にした馬鹿馬鹿しい台詞を、俺は小さく鼻で笑ってやった。そうだ、裕翔……。裕翔でもいれば、俺の話を優しく聞いてくれるだろうに。
あなたは知らない。彼女が裕翔に恋をしていた時の事を。
裕翔だってさ、あなたが好きだったんだよ。弱いくせしてどこまでも真っ直ぐで、純粋で真面目な君を。
それは小学6年生の秋口だったと思う。体育の授業が終わり、教室で体操服から私服へと着替えている最中、真面目な顔をした裕翔がそう持ち掛けてきたのだ。
当時の俺は、次の瞬間一ミリも勝ち目がないように思え、失恋の二文字を頭に浮かべた。
が、次に裕翔は思わず目を見張るような衝撃な言葉を口にしたのだ。
あまりにも理解不能な彼の言葉に、当時の俺は思考が追い付かなかったのを未だに覚えている。
だって……小学6年生がまるで自分は大人だとでも言うような口振りで話すのだから。
でも………今なら彼の言葉の真実が分かる気がした。いや、分かってしまったんだ。
あの時―――裕翔は俺の為に自ら身を引いてくれたのだ、と。
裕翔が望んでいたあなたとの幸せ、掴むことが出来なかった。
きっと俺はあの頃の裕翔の背中を真似してこれからもあなたの隣で彼女の幸せを願い守るに違いない。
だって――――俺も裕翔も、これからもずっと変わらずあなたを好きで居続けるのだから。
“色々な意味”でね。
―――最後に俺は、あなたに意地悪をした。
有岡大貴の“大事な話”の真相を知っていても教えずに見送る、という少々残酷な意地悪を。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。