さて、翌日のオリエンテーション終了後の私と伊織はというと。
金剛地先輩に呼び出され、生徒会室にいた。
断っておくけれどループではない。金剛地先輩の発言でもう解るけど、残念ながらループしてない。
……ループしてたら昨日のあれこれを取り消せたのかなぁ。
でもループしたら毎日生徒会室に呼び出されて口先の語彙力を殺されるんですよね。
やっぱループしなくていいです。
伊織はペンライトを握ったまま腕を組んで、金剛地先輩を睨んでる。
リア充は諦めたから口を酸っぱくして言う気にもならないけれど、それでも少しは周りの目を気にしてほしいとは思う。
伊織は威嚇するように金剛地先輩にペンライトを向けた。教室で私にペンライトを向けるときとは気迫がまるで違う。
そもそも教室でペンライトを出さないでほしいんだけど。
伊織はペンライトを光らせた。色は勿論、一推しの黄色。
意味がわからない。なんでそうなるの。
と具体的に抗議したいけれど、例によって例のごとく口先の語彙力が死んでいる。当然ジャッジなんてできるわけがない。
そもそもそれら二つの同好会が必要とされる基準って、何?
今すぐに否定したいけれど口を開いたらろくなことにならない。それはわかりきっている。
私は制服のポケットからスマホを取り出し、納豆同好会参謀部に書き込んだ。
× × ×
私賢い。学習した。これで変なことを口走らずにすむぞ!すごい!
……端から見たら完全に陰キャの行動だと思うけど仕方ない。死ぬより安いもの。生きてるだけでまるもうけだ。
× × ×
伊織はペンライトをズボンのベルトに挿して、ポケットからスマホを取り出した。
高校生活三日目にして独自のスタイルを確立している伊織って本当になんなんだろう。
や、やってしまった。口に出せばごまかせた部分が、文章だとごまかせない。
こういうことになると伊織が口うるさいのは昔からのつきあいで知っていた。知っていたのにこれだ。
あ、金剛地先輩が伊織の言動で気勢をそがれてる。レアケースだ。
とはいえどうしよう、参謀部に逃げるのもそれはそれでよろしくないみたいだ。当たり前といえば当たり前だけどさぁ……。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!