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第27話

愛し方を知らない私たち
パートのおばちゃん
……もしかして零哉ちゃんってば、本当にこの子が好きだったり?
パートのおばちゃん
ごめんね、おばちゃん余計なこと言っちゃったね
パートのおばちゃん
このロースカツ、おばちゃんがおごって……
金剛地零哉
金剛地零哉
ななな、なにを言っている……ではない!おっしゃいますか!
金剛地零哉
金剛地零哉
俺とこいつの間にあるのは上司と部下の関係です!
金剛地零哉
金剛地零哉
ゆえに、奥様が心配するようなことは一切ありません!それと、カツは責任をもって俺が買います!
 ……何が起こった?今、何が起こった?

 金剛地先輩がオタク特有の早口みたいなのをかましたのはわかる。っていうか金剛地先輩も納豆のオタクだからオタク仲間……カナぁ?

 で、なんでこんなに焦っているんです?普段の先輩なら「俺が好きなのは納豆」とかすまし顔で言いません?

 カナみたいな表情でめっちゃ慌ててる……。や、やめて、私が恥ずかしい!っていうか萌えちゃう!
パートのおばちゃん
ご、ごめんね零哉ちゃん!おばちゃん、仕事に戻るね
 それだけ言って、パートの奥様は職員専用ドアの中へ逃げた。

 そんなんありか。……ありだ、仕事中だし。

 お騒がせしました、金剛地先輩が。



 × × ×



 結局二人合わせて六〇〇円のロースカツを買うことになった。

 金剛地先輩が財布の中を見ながら何度も難しい顔をしていたから、自分の分は出しますって頑張って言ったら、激怒しながら却下された。

 怖い、むっちゃ怖い、ハチャメチャに怖い、美しい分怖い。
金剛地零哉
金剛地零哉
どうだ、俺のロースカツは美味いか
 公園でベンチに座る男女のセリフらしくはない。とはいえ、金剛地先輩の言動に突っ込みきれるほど私の心は強くない。

 話題を広げようにも、ベンチと砂場とクスノキがあるだけの公園という名の空き地じゃ何も見つからない。
早見悠香
早見悠香
はひっ
 空腹にロースカツはちょっと重い。でもおいしい。サクサク衣と柔らかお肉から溢れる汁は極上。
金剛地零哉
金剛地零哉
まったく、あの方にも困ったものだ
金剛地零哉
金剛地零哉
そもそも上司が部下に手を出すなど、不純だと思わないか?
金剛地零哉
金剛地零哉
俺は不純な人間には絶対にならない。ましてや、期待を裏切る人間になど……
 しばらくはロースカツを食べながら金剛地先輩の問わず語りに耳を傾けておけばいいやと思った。
金剛地零哉
金剛地零哉
……ならない
早見悠香
早見悠香
おっほ……
 金剛地先輩の声のトーンが急に落ちた。おっほ、やっぱり良い声……。

 ……じゃない、そういう場合じゃない。金剛地先輩の表情には、吐き出せない苦しみがにじんでいた。

 最後に屋上で会話した時の伊織みたいに、悲しみを感じさせる。
金剛地零哉
金剛地零哉
徳武がお前を裏切ろうが、俺だけはお前を裏切らない
金剛地零哉
金剛地零哉
それだけではない。俺は上司としてお前を守り抜く
金剛地零哉
金剛地零哉
……そういうことだ
 これも問わず語りなのだと思う。金剛地先輩の横顔はいつになく真剣で、納豆を挟む余地すらない。
早見悠香
早見悠香
なんでここまで思い詰めてるんだろう
 自然に、当たり前に、考えていることが口から出た。

 口を片手でふさぐ。けれど、溢れたものを完全に元に戻すことは、絶対にできない。
金剛地零哉
金剛地零哉
早見。……お前
金剛地零哉
金剛地零哉
部下として絶対に、誰にも口外しないと約束できるか
 とても良い声で金剛地先輩はささやく。おっほ……。
金剛地零哉
金剛地零哉
金剛地フーズのことだ
 ロースカツを持つ手が震える。

 ……私、その話を聞いていいの?その資格があるの?