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第26話

好きとか嫌いとか簡単に言うけど
早見藤花
早見藤花
待って、恥ずかしいから、ダメ……
 藤花は部屋の外の伊織に思いっきり色っぽい声で言ってから、くるっと回ってドレッサーに駆け寄った。ぐちゃぐちゃになったメイクを急いで落としてる。

 ってか、ちょっと待って。これ私が変な勘違いされない?

 私も何か言わないと……!
早見悠香
早見悠香
あ、あわわわわわわわ……
 まともに語彙力を失った!何にも思いつかない!

 この状況で伊織に何を言って良いのか、本当にわからない!
徳武伊織
徳武伊織
あ、ああ。わかったけど……
金剛地零哉
金剛地零哉
何がわかっただ、この破廉恥ども!
 我が家の階段を駆け上がる音が響く。

 いらっしゃいましたね、金剛地先輩。……嫌な予感はいつも当たりますね!
金剛地零哉
金剛地零哉
失礼する!
 金剛地先輩が部屋のドアをがばっと開いた。最悪オブ最悪だ。

 私は語彙力喪失したまま立ち尽くしてる。意味深なことを言った藤花はドレッサーの前ですっぴん。
金剛地零哉
金剛地零哉
早見、お前が作った納豆オムレツは最高だったぞ!
金剛地零哉
金剛地零哉
腹ごなしに出かけるぞ。徳武、お前も来い。家まで送ってやる
 めまぐるしい。笑顔が眩しい。あと私は何も食べてないんですけど……。

 藤花はドレッサーに顔を伏せてる。当たり前だ、こっちに好きな人いるもんね。

 すっぴんなんか見られたくないよね。きっと、一番良い自分を見てほしいよね。



 × × ×



 伊織の家は私の家の隣だ。
金剛地零哉
金剛地零哉
良いか徳武。お前は納豆同好会を脱退したとはいえ、生徒会長たる俺が管理すべき生徒の一人でもあるからな
金剛地零哉
金剛地零哉
あのような破廉恥な女に呼び出されて、軽率に家に上がることは金輪際許さないぞ
 金剛地先輩が大きな視点から説教をしている間、私は伊織になんというべきか真剣に考えていた。

 伊織も悠香も苦しめた私が最初に言うべきこと……。
徳武伊織
徳武伊織
……わかったから俺は家に入りますね
徳武伊織
徳武伊織
じゃあな、悠香
早見悠香
早見悠香
その……ごめん
 思いついた言葉を口にした。その瞬間、伊織の表情は蜂にでも刺されたみたいに歪んだ。
徳武伊織
徳武伊織
そうか
 表情とは反対に、諦観ていかんという言葉がよく似合う穏やかな声だった。

 もっとマシな言葉をかけたかった。でも、今の私にはわからなかった。

 私は伊織とどうなりたいんだろう。考えるとお腹のあたりが重くなって視界が暗くなるような感じがする。



 × × ×



 金剛地先輩は納豆オムレツのお礼と称して私をコウエツキナーゼに連れてきた。

 二〇〇円までなら好きなお総菜をおごってくれる、らしい。
パートのおばちゃん
あらぁ、零哉ちゃん!今丁度ロースカツを揚げたところなの。買ってかない?
金剛地零哉
金剛地零哉
……ふむ、衣のきつね色が納豆を連想させて食欲をそそりますね
パートのおばちゃん
零哉ちゃんは本当に納豆が好きだねぇ!
 金剛地先輩、学校ではひどいこと言われたりもしてたけど、バイト先のコウエツキナーゼでは好かれてるみたい。

 いつもと違う金剛地先輩の柔らかい態度を見て、なんかちょっと安心……っていうかドキドキする。

 いつもはきつい表情が和らいで、優しさを感じさせる。……カナ。

 やめて、起きないで、カナ発作!今はダメ!ここは公共の場なの!
パートのおばちゃん
あら、その子もしかして零哉ちゃんがいつも言ってる女の子?
パートのおばちゃん
かっわいいねぇ。零哉ちゃん、その子のこと好きなんでしょ~?
 え、あ、はい?今なんと仰いましたか奥様。

 金剛地先輩も何か返事してくださいよ。出来れば否定でお願いします。お願いしますカナァ!