だめだ、伊織以外まともな奴がいない。……伊織以外まともな奴がいない?
私!私の方がまとも!……と言い張りたいけど言い張るための材料がない。カナァ……。
やめて!私の手まで引いて追い打ちやめてくれないカナ!
× × ×
家に帰った私は早速ネバッターに感想を書き込みまくった。カナ!カナ!カナ!カナ!
そしてカナ、夏焼、奏というワードのミュートを外し、カナ推しさんたちの書き込みを検索しに行った。行った。けど見つからない。
調べたらブロックされていた。……そういえば。
私が1か月前にした最後の書き込み、これだった。
……カナァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!
私のバカ!バカ!カナァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!
× × ×
自業自得とはいえオタ友を一気に失った悲しみを抱えて私は登校した。
いつもの教室は私に関係ない話であふれている。
伊織がまい☆らいすの歌を歌っていないのがなおつらい。
完全に虚を突かれたといった表情で伊織が立ち止まった。
クラスメイトが固まった。私も固まった。
今、何考えた?何言った私?
伊織が神妙な面持ちになっている。いいのかもなにも普段から自分勝手に歌ってたくせに今更何を……。
そして、なんで私は伊織にペンライトを向けているのカナ?
心底嬉しそうに笑って、伊織は口を大きく開いた。そのまま息を吸う。
そして伊織は再び停止した。
人に聞かせる言葉ではなく、自分の考えをまとめるための独り言といった調子だ。
わからないって感情だけが伝わってくる。
その問いに明確な理由をつけて返答することはできないけれど、私は普段の伊織を求めている。
クラスメイト達はいつもの調子を取り戻していく。
自業自得だけれど、私の調子はいまだにすこぶる悪い。
× × ×
よりによって今日は金剛地先輩のバイトの時間が早いため、納豆同好会の活動はない。
納豆同好会の活動がないことをこれほど残念に思ったことは初めてだと思う。
屋上。フェンスを背に。
私は伊織にフェンスドンをキメられていた。めっちゃ顔近い。これオタ友の距離じゃない。
死んじゃう!死んじゃう!助けてカナァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!