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第8話

私の幼馴染
 屋上から見える空には雲が立ち込めて、太陽の光が遮られている。

 視界は暗く、ちょっとでも油断すると水中みたいに大きくゆがむ。
早見悠香
早見悠香
リア充って、あんなのなんだ。私、あんなのになろうとしてたんだ
 視界のゆがみが、コンクリートに落ちる。私の涙がはっきりと染みを作る。
徳武伊織
徳武伊織
たまたま性格悪いグループに当たっただけだろ
 伊織の言葉の語尾が震えている。

 これは何かを堪えているときの伊織の癖だ。
徳武伊織
徳武伊織
なぁ、一つ、お前に言いたいんだ
 伊織の語尾は、大きく震えている。

 伊織は口を引き結んで、私の両肩を強く掴んで。

 それから、ゆっくりと口を開いた。
徳武伊織
徳武伊織
リア充とか、そういう言葉で自分や他人の価値を決めるのさ、やめろよ
 伊織の表情は真摯で、切実さを含んでいた。

 私の心臓が強く脈打ち、これから自分は苦しめられると警告するが、伊織の表情は私に、後ずさる卑怯さを与えてはくれなかった。
徳武伊織
徳武伊織
ちょっと嫌な話するけどさ、俺だって有名アイドルと作曲家の子供で、スペックだけで考えればリア充に分類されると思うんだ
 伊織は私の肩から右手を離し、制服のベルトに刺したペンライトを握った。

 そんなところにもペンライトあったんだ、盲点だった。
徳武伊織
徳武伊織
でも俺には芸術の才能もなくて、ステージ下でペンライトを振るので精一杯。でも、それが楽しい
 一拍おいて、大きな問いが私の前に現れる。
徳武伊織
徳武伊織
なぁ、俺はリア充か?それとも非リア充か?
 伊織は。伊織は。私の幼馴染、徳武伊織は。
早見悠香
早見悠香
……ごめん、なさい
 伊織は、私の大切な人だ。
徳武伊織
徳武伊織
謝ってほしいわけじゃねぇよ。……本当に言いたいのは
 伊織は私から顔をそらした。
徳武伊織
徳武伊織
俺は、悠香が楽しそうに生きてるほうが嬉しいってだけだ
徳武伊織
徳武伊織
枠組みに固執して生きづらそうにしてるのが見たいわけじゃねぇ……って話
 伊織は顔をそらしたままだ。その耳は赤く染まっている。

 今言ったことは、伊織からすれば相当に恥ずかしいことだったのだろう。掴まれたままの左肩が痛い。

 けれど、それよりも。
早見悠香
早見悠香
ありがとう……!
 衝動のまま、伊織に抱き着いた。こんなのは幼稚園以来だ。

 自分から抱き着いておきながら、私も恥ずかしい。

 私の視界は、完全に水中にある。伊織の胸に顔をうずめていれば私の顔は見えないから、都合はいいけれど。
徳武伊織
徳武伊織
……いいから、離れろよ。メイクで俺の制服、汚れるかもしれねーし
 伊織の声は笑っているが、語尾が震えていた。けれど、しばらくは喜びのまま、こうさせてほしい。

 伊織は弱った私にやさしいのに、こんな時でも自分を優先してしまう私は少し情けないな、とも思った。


 × × ×


 女子トイレでメイクを直してから、私と伊織は生徒会室に向かった。
徳武伊織
徳武伊織
失礼します
 生徒会室のドアを開けると、腹を抱えてうずくまる金剛地先輩の姿が目に入った。

 まさか急性胃炎とかじゃないよね!?保健室ってどこだったっけ!?地獄!?
早見悠香
早見悠香
金剛地先輩!
 私は混乱しつつも、金剛地先輩に駆け寄った。