逃げたい一心でフェンスに背中を押しつける。
ダメだ!フェンスはガタガタ言うだけで私に都合よく動いてはくれない!
というか、動かれたら物理的に死んじゃう!カナァ!
屋上に連れてこられてすぐに、伊織に追い詰められてこの状態になった。
自分でも何を口走っているのか解らない。ただ伊織とフェンスのガタガタが怖い。
伊織がフェンスから両手を離して、二歩下がった……隙に逃げようと走り出したら、見事に左腕を掴まれた。
振り返ると伊織がものすごく睨んでる。ははは、身体が正直でごめんね☆
伊織が俯いた。捨てられる寸前のペットのような哀愁を漂わせながら。
伊織の頭に犬耳がたれてるように見えてきたよ。もはや一介の萌えキャラだよ伊織。
そんな態度、伊織に一番似合わないよ。
俺は、悠香が楽しそうに生きてるほうが嬉しいってだけだ。
暖かい風が屋上を吹き抜けてゆく。伊織は俯いたままだ。
その方が楽だから、わかんない。
それを深く考えたら私たちは、オタななじみではいられなくなる。
そんな予感に心が支配された。
伊織はそれだけ言い残して屋上から去った。
暖かい風は吹き続けているけれど、私の心は冷たくてぐちゃぐちゃででろでろだ。
泣きそうなのをぐっと我慢した。
× × ×
翌日、伊織は私に挨拶もしなくなった。RICEでもブロックされてしまった。納豆同好会参謀部からも消えた。
猛烈に寂しいけれど、怖くて声をかけることができない。
私たちはもう既に、普通のオタななじみではなくなってしまった。
× × ×
金剛地先輩はお怒りだ。ごめんなさい、全て私のせいです。
でも死んだ語彙力をよみがえらせる気力が今はないんです、本当にごめんなさい。
え?今なんて言いました?え?
私の聞き間違いであってほしいのですが、え?
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。