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第2話

なっ友ってなんぞ?
早見悠香
早見悠香
かっこいい
 目の前のイケメンの美しさに、喪失した語彙力が帰ってこない。厳密には、言語野はしっかり働いている。しかし、頭の中を巡る言葉は口から出ない。

 私の口が語彙力を喪失している。
徳武伊織
徳武伊織
おい、さっさと逃げるぞ
???
???
そうだな、ラフランス納豆などはどうだ。別にラフランスは入っていないがな
 米麹高校の制服を着た金髪碧眼イケメンが納豆の押し売りをしてくる。

 よく聴くとその麗しすぎる声は、声優の南風野智昭はえのともあきさんに似ている。耳が幸せすぎる。最高か。
早見悠香
早見悠香
いい
???
???
そうか、お前は納豆の良さを理解してくれるか!ならばお前は納豆同好会に入り、俺のなっ友になれ!
 納豆イケメンが碧眼を煌めかせながら、意味不明な提案をしてくる。
徳武伊織
徳武伊織
なっ友とか納豆同好会って何ですか?俺たちは米ぬかウォーター買いに来ただけなんですけど
 伊織が私の肩を引き寄せ、納豆イケメンを睨み付ける。

 おいやめろ、伊織はともかく私には恥じらいというものがある。あと、私を米ぬかに巻き込むな。

 伊織の手をしっ、と払う。仕方なく、といった風情で伊織が私の肩から手を離す。
???
???
何だ、腰を据えて納豆の話をしようということか。ふむ、建設的で良いな
 良い声だから騙されそうになるけど、話が通じるとか通じないとかいった次元の話ではない。最高だ。

 いや待て、本当に良い声すぎてヤバい。このままだとラフランス納豆に手を伸ばしてしまいそうだ。

 ああ、私は何を考えているの?
早見悠香
早見悠香
いい
 私の口は語彙力を失い続けている。


 × × ×


 私たちは納豆イケメンを引き連れ、米麹高校のグラウンドの片隅にやってきた。

 横倒れになって、春だというのに葉の一枚もない木に、伊織と並んで座る。目の前には仁王立ちする納豆イケメン。

 納豆イケメンについては、厳密には引き連れてきたのではない。

 伊織が何度も撒こうとしたが、その度に納豆のような粘り強さで喰らいついてきて、伊織が根負けしたというか。

 グラウンドの中心では甲子園に出たとかいう野球部が青春していて、それを真のリア充女子軍団がキャーキャー言いながら見守っている。

 初日からドルオタ幼なじみと、納豆を押し売りする男に振り回されている私には、遥か遠い世界の出来事のように見える。次元を隔てているようにすら思える。リア充って何なんだろ。
早見悠香
早見悠香
いい
徳武伊織
徳武伊織
悠香、気を確かに持て
 悲しいかな、口先は語彙力を失ったままだ。伊織は自分の眉間に指先を当て、頭が痛いとでも言いたげにしている。

 折角だから私が日頃から伊織の言動に頭を痛めているということも知ってほしいんですが。
???
???
さて、まずはなっ友についてだ。これは納豆を愛する友人を指す、俺の造語だ
 ダメだ、この人の口から出る言葉は何でも美しく聞こえる。
徳武伊織
徳武伊織
あの、よくわからない説明の前に名乗ってもらえますか
 伊織がだいぶ常識的な反応をしている。私は口先の語彙力が死んでいるから黙っておく。
???
???
……失礼した、なっ友候補の登場に我を忘れていたようだ、俺の名は
金剛地零哉
金剛地零哉
金剛地零哉だ。ひとまず納豆同好会の説明に入る。納豆同好会は俺が会長を務めるなっ友の会だ。
俺はお前達を強制的に納豆同好会に引き入れたいと思っている
徳武伊織
徳武伊織
俺も悠香も拒否します
金剛地零哉
金剛地零哉
そうか、そちらの女子は悠香というのか、覚えたぞ。名字も調べて名簿に加えておこう
徳武伊織
徳武伊織
待て!……その、俺は徳武伊織です
金剛地零哉
金剛地零哉
殊勝だな
 いつの間にやら戦いみたいになってる。なんぞこれ。