私と藤花はダイニングキッチンにいる二人に告げず、藤花の部屋に行った。
可愛いパッチワークの掛け布団に座って、藤花は笑ってんだか泣いてんだかわからないレベルで肩を震わせている。不穏すぎるよ……。
藤花の声が震えている。藤花の横顔はキューティクル輝く御髪で隠れているから、泣いてるんだか笑ってるんだかやっぱりわからない。
私は居心地悪くてドア付近で立ち尽くしている。この部屋自体がThe乙女すぎて居心地が悪いけど、本当に藤花、藤花なんだよ……。
この部屋で伊織は藤花に押し……推し!推し!ダメだ、考えるだけで顔が火照る!
藤花は肩を震わせて、絞り出すように語り続ける。つやつやの髪がサラサラ揺れて、涙を流す藤花の瞳がちらりと見えた。
心が痛い。逃げたい。逃げたい逃げたい。
でも、逃げてどうなるの。幼馴染の伊織からも逃げて、妹の悠香からも逃げる。
私の人生、逃げるだけで終わって良いの?
藤花がみっともないほど歪んだ泣き顔を私に向ける。……みっともない?どこがだ。
藤花は私なんかよりずっと立派だ。自分の気持ちに正直に向き合っている。
私は、私はどうしたいんだろう。逃げたい。そうじゃない。
私も……は?って感じだよ。何かをひねり出すにしたって、なんでこのタイミングでこんなの出た。
仕切り直してだいぶまともなことを言った。
大丈夫だ、これなら意味不明ではないし、私の気持ちも藤花に伝わるはず……。
藤花はベッドから立ち上がって、私に詰め寄った。
顔は真っ赤でメイクがぐしゃぐしゃで、一万年に一人の美少女とは思えない状態になっている。
いくら謝っても謝り足りない。私の煮え切らない態度が藤花をここまで追い詰めたんだ。
……うっ。とてつもなく言いづらい。
私が視線を泳がせていると、背後からノックが聞こえた。
前後不覚。徳武乱入。
頼むから金剛地先輩まで来ないでくださいね!納豆オムレツ食べててくださいね!
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!