無料ケータイ小説ならプリ小説 byGMO

第7話

納豆の真実(の一端)
早見悠香
早見悠香
よし、上履きのゴム部分が緑。三年生だ
徳武伊織
徳武伊織
なぁ、今回は俺も勧誘参加していいよな?
早見悠香
早見悠香
いいんじゃない?
 もはや私も伊織も勧誘の成功など期待していない。金剛地先輩の面白い話が聞ければいいだけ。

 伊織はバッグからペンライトを取り出そうとしたが、それについてはさすがに咎めた。

 その際、バッグの内側に見えた伊織の推しメンの缶バッヂには一切触れないことにする。
早見悠香
早見悠香
(上履きのかかと踏んで紙パックジュース飲んでるいかにもリア充な)あそこの先輩たちに聞いてみようか
徳武伊織
徳武伊織
男女半々だしいいんじゃね?
 私と伊織はどうにでもなーれとばかりに、廊下の真ん中で輪になって座るリア充様ご一行に駆け寄った。


 × × ×

徳武伊織
徳武伊織
あの、すみません。少し米……じゃなくてお話いいですか?
三年生A
あっ、君が噂の超絶かわいい一年生君?どうぞどうぞ!
 派手な化粧の女性リア充様が隣を開けて、座れとばかりに床を手でたたく。

 一年生と三年生は伊織の外見で騙せる程度には遠いらしい。伊織よかったね。私もよかったね!
三年生B
おめーイケメンに甘すぎ!
三年生A
おめーもぶりっ子に甘いだろーが!
 リア充様方、今は醜い争いの時間ではありません、勧誘タイムです。

 早速米とか言った伊織を手で制して、私が話を続ける。
早見悠香
早見悠香
そのですね、私たち、納豆同好会に入っていただきたくて……
三年生B
納豆て、もしかしてオワコン金剛地?
三年生C
もしかして君ら、金剛地とつるんでんの?ってか、脅されてたり?
三年生D
ありえそー!
 冷や汗が背筋を滑り落ちる。

 あっ、これ、よかったねが取り消しになるやつですね。
三年生B
あんな、父さんの会社が倒産!する前から痛々しかったヤツに目ぇつけられて君ら大変だね~
三年生C
それ、父さんと倒産をかけてんのかよ!はっは!
三年生B
ギャグの解説やめろよ~。ハズいだろ~!ま、オワコン納豆マンよか俺の方がマシだから良いか!
三年生A
アッハッハ!鏡見ろよ鏡!
 伊織は顎に指をあてて表情を硬くする。私は先輩方に見えないようにこそこそとスマホで「金剛地 倒産」を検索した。

 見つかったものは、一年前に書かれた金剛地フーズという食品会社の記事と、そこに刻まれた倒産という単語。
早見悠香
早見悠香
金剛地、フーズ……?
 ポロリと、口から声が漏れた。常に堂々とした態度の金剛地先輩とは全く結びつかない言葉だ。
三年生D
そうそう!倒産前はさ、社長の息子だし、ありかな~なんて思ってたけど……今はないわ~
三年生B
え?ありえね。あんな顔と納豆とお勉強だけのハリボテが良いとかねーよ!!
 リア充様方が、勝手に盛り上がる。リア充様方が、一斉に笑いだす。

 私はなんだか悲しくなった。私が目指していたはずのリア充たちが、他人の不幸で大笑いしている。
早見悠香
早見悠香
ひどい……
徳武伊織
徳武伊織
悠香
 悲しくて、なぜか悔しくて泣きそうだ。

 下品な笑いの中で、きわめて静かな伊織の声だけが私を安心させる。

 凍り付いたような表情の伊織は私の手を引いて、床に座って馬鹿笑いする人たちから離れていく。

 もう関わりたくない人さ ん ね ん せ い の せ ん ぱ いたちは、私たちの背中に声をかけてきた。
三年生A
かわいい後輩君、また来てねー!
三年生C
どう見てもあいつらデキてっから無理だろ!
三年生D
え~?ちょっといいな~、って思ってたのに~!
 私も伊織も振り返らずに、階段を上った。

 伊織の手に込められた力が、強くなる。
早見悠香
早見悠香
いたっ!
徳武伊織
徳武伊織
わ、悪い……
 伊織の声には珍しく、本当に珍しく元気がなかった。

 伊織と私がほとんど同じ気持ちだと思うと、今だけは少し安心できた。