グラウンドからどっと笑いが起きる。なんだこれ、なんだこれ。
なんかすごくいいこと言ってる感じするけど、私かなり恥ずかしいことバラされてるからね!
……ね?だから私、心揺れないで、ね?
グラウンドからの拍手はまばらだった。あっ、これ、退かれてますね。
私の隣にいる金剛地先輩がハンカチで顔を拭いながら鼻を鳴らした。
屋上は雨の静けさに包まれていた。
金剛地先輩はおなかの納豆を抱くように腕を組みながら、びしょ濡れの伊織の隣に並び立つ。
伊織が驚いた様子で金剛地先輩を見る。何があったの?
伊織が金剛地先輩に右手を差し出す。金剛地先輩は力強くうなづいて右手で答える。
グラウンドが沸く。雨に負けない歓声が響く。
二人がふざけて力を入れあって、小さなケンカになる。
私は楽しい気持ちと、えも言われぬ不安を抱えながらその様子を眺めていた。
× × ×
次の日、ほとんどの生徒が風邪をひいて学校がもぬけの殻になった。
それなのに私も伊織も金剛地先輩もぴんぴんして、校長先生からのお叱りを受けている。
本当にすみませんでしたカナァ!
× × ×
今日の授業は中止になったので私たちは納豆同好会の集合場所もとい生徒会室に向かった。
途中、伊織は生き残りであるクラスメイトCちゃんに呼び止められたので、置いてきた。
ちょっとむかむかする。胸の内をごまかすように米ぬかウォーターをあおる。ちっとも美味しくない。
口に含んだ米ぬかウォーターを吹き出しかける。よく踏ん張った、ナイス口輪筋!
と思いつつ飲み込んだらむせた。結局ダメだった。
すごく真剣な目で私を見てくる。その美貌で心がとろけるんですけどぉ……。
あっ、だめ、口が勝手にしゃべっちゃう!!!!!
ガラッ!
ああ、言うわけない。言えるわけない。語彙力も崩壊寸前だし。
この胸に灯った黄色い光は、まだ打ち明けなくてもいい。
end.
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!