「きみのこと…愛してるよ。」
ぼんやりとした意識の中で誰かが囁く。
この声は…?
ぽかぽかとした陽だまりの中、私はうっすらと目を開ける。
「あっ……目、覚めたんだね。」
先程と同じ声が聞こえる。
声の主は太陽の光を浴びながら傍らに座る男性。
その男性はこちらに優しく微笑んでいた。
けれど…
「………あなたは…?」
私はその男性には覚えが無かった。
その言葉に男性はショックを受けたのか、少し目を見開いたあとに俯いた。
「あ…ごめん、そうだよね。
ボクは上村颯(ウエムラ ハヤテ)。
目覚めてすぐにボクがいても困惑しちゃうよね…」
その切なそうな言い方に、こちらも切なくなる。
そして…失ったモノの大きさに気がつく。
「ごめんなさい…私…。」
「いや、綾乃は悪くないよ。
キミは…悪くない。」
上村さんは、私のことを綾乃と呼んだ。
そう。私の名前は成瀬綾乃(ナルセ アヤノ)。
やっぱり彼は私を知っているんだ。
「上村さん。なぜ私がここにいるか…ご存知ですか…?」
彼はまた切なそうな顔をして
「綾乃は何者かに襲われたんだよ…。
夜道で後から頭を殴られて…ね」
それを言われてやっと気がつく。
頭に巻かれた包帯に。
人の体は面白いもので、気がついて初めて痛みを覚えた。
「……っ」
「あ…っ、…大丈夫!? …無理しないで」
痛みに耐えていると、すぐに彼は対応してくれた。
彼の優しさは信用出来る気がした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。