翌日。
病院からの連絡で家族が駆けつけた。
私は大学進学をきに上京していて、家族は自営業を営んでいたため、付きっきりという訳には行かなくて、上村さんに託したと言う。
「綾乃、ごめんね。付きっきりでいられなくて…」
申し訳なさそうに何度も謝る母
「いいの、お仕事大変でしょう?
私こそ…心配かけてごめんね…。」
できるだけ家族に迷惑をかけたくなかった。
だから、無理をして笑顔を作った。
「それから…颯さん。あなたにもごめんなさいねぇ…。さっき看護師さんに聞いたけれど…ずっと付き添ってくれてたんでしょ…?」
その言葉に私も驚く。
彼がずっと付き添ってくれていた__。
彼の顔をじっと見つめた。
「いえ、ボクは寄り添ってあげることしか出来ませんでしたから…。
綾乃のこと、守ってあげられなくて…こんなことになってしまって…不甲斐ないです。」
そんなことを言ってくれるなんて思っていなかった。
私がこんなことになったばっかりに、彼までこんな思いをさせてしまった。
挙句、記憶を無くしてしまっているなんて…
そう思うと、自分が…犯人が恨めしく思えた。
そして …… 嬉しかった。
しばらくして、家族が帰ると、彼は私の目をじっと見つめた。
「…ねぇ。さっき、御家族の前で無理して笑ってたでしょ?」
まるで見透かされたかのようだった。
「っ………そんなことっ…。」
「嘘だね。」
言葉を遮られてしまう。
「綾乃はずーっと前からそう。
そーやって無理して笑って、周りに心配かけないよーにってしすぎ。」
その言葉に自然と涙が溢れた。
『も~…綾乃ってば、周りのこと心配しすぎ。
頑張って笑わなくていいんだよ?』
この言葉、前にも言われた覚えがある。
あれは以前、私がミスをおかした時。
このままだと、周りに迷惑をかけると思って、何もかも自分でかたをつけようと無理をして熱を出してしまった時のこと。
看病に来てくれた男性にいつものように笑顔で接していたら言われた言葉。
その男性の顔までは霞みがかってしっかりと思い出せなかったけれど、少しだけ思い出した気がした。
「…私、ちょっとだけ思い出したかも……です」
そう言うと彼は少し驚いた顔をして
「っ………そっか…よかった、少しでも何かを思い出せて。」
そう言って微笑んでくれた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!