第6話
大河の真意
もしかして、大河くんもお弁当が欲しかったのだろうか。
伯父さんと伯母さんから毎日の夕食費はもらっているのだけれど、お願いされたのはそれだけで、弁当までは作っていない。
大河くんも自分でやりくりしている様子だったので、あまり気にしていなかった。
言葉の続きを待っていると、キッチンカウンターの向こう側から、千波と雷太が顔を覗かせた。
二人とも話を聞いていたのか、口角を上げてニヤニヤしている。
二人ははしゃぎながらリビングへと逃げていった。
大河くんの方を確認すると、頬から耳にかけて、やや赤くなっている気がする。
大河くんが何を言いたかったのか、知りたい気持ちもあったけれど、本人がいいと言っているのだ。
それ以上は私も聞かないことにした。
***
夕飯の準備は着々と進み、かぼちゃの甘い香りと、鮭とバターの合わさった香りがする。
次女の渚と長男の風太が、部活を終えて帰ってきた。
渚は中学三年生、風太が一年生。
二人とも家のことは進んでやってくれるし、部活も頑張ってほしいという私の希望も聞いてくれて、文句も言わず両立している。
その代わり、平日の帰りは遅い。
だからやっぱり、料理は私の十八番になりつつあった。
母も仕事から帰ってきたら、豊橋家の夕食の時間だ。
宿題を終えて大河くんに遊んでもらっていた千波と雷太も、配膳を手伝ってくれて、準備は完了。
母がそう言って笑い、渚と風太が頷く。
家族にまで褒められるのは、照れるというよりも恥ずかしい。
毎日いろんな料理を模索しているうちに、少しずつ熟れてきただけだ。
鮭の骨がうまくよけられない千波と雷太を、私と大河くんでそれぞれ隣で手伝っていると、母が笑う。
それはつまり、雷太たちも言っていた〝結婚〟のことだと分かり、私と大河くんは困惑した。
渚の注意に、母も雷太と一緒になって反省している。
私は苦笑いを浮かべ、複雑ともなんとも言えない胸中だった。
好きな人なんていないし、色恋沙汰とも縁遠い。
確かに、クラスメイトが恋愛話をしているのを羨ましく思うことはあるし、自分にももっと自由な時間があれば、現在進行形で恋愛していたかもしれない、そう考えることがある。
でも仮定の話で、現実は違う。
今はそれよりも、家族のために動くのが私にとっては大事なこと。
この先しばらくは、きっと同じ生活が続いていくのだろう。
変わらない日常を嘆くよりは、少しでも美味しいご飯を作れるよう、頑張ろうと思った。
【第7話へつづく】