第9話
いつもと違う感覚
先輩は私を見つけるなり、ふんわりと微笑む。
弁当箱を返しに来たのだと分かって、私は両手を差し出した。
ついさっき女子たちの誤解を解いたばかりなのに、またこの場面を見られて面倒なことにならないだろうか。
そういう心配はあるのに、先輩の申し出を無下にするのもできない。
やんわり断る方法を考える。
先輩は両頬を膨らませて、首を横に振った。
綺麗な顔でそんなことをするものだから、心臓が一瞬跳ねる。
女子に人気がある理由が、分かった気がした。
胸の奥が、きゅっと詰まる感覚。
うまく言葉にできないけれど、変な感じがした。
先輩は張り切っているのか、ガッツポーズをして見せる。
大河くんの代わりに、という安易な考えだったのだけれど、すぐに後悔する羽目になった。
いつのもスーパーに足を踏み入れるなり、「男の子が違う!?」と言いたげな視線が集まる。
食材の位置はほぼ把握している。
ナスと舞茸とシメジ、それから手羽先と豚肉を先輩が持つカゴに放り込み、そこに牛乳パックと卵パック、ハムとレタス、食パンも入れていく。
隣で先輩が感心して驚いているけれど、私はそれどころではない。
一秒でも早く帰りたいと、会計を済ませて逃げるようにスーパーの外へ出た。
椿先輩について、分かってきたことがある。
ちょっとお茶目で、時々強引な人だ。
【第10話へつづく】