今日は勤労感謝の日。
その祝日にちなんで、私の家事は本日一日免除してもらえることになった。
家のことは渚たちに任せていて、私は大河くんの家に呼び出され、夜になった今はリビングのドア前で待たされている。
あの告白以来、大河くんは自分を頼ってほしいと、はっきり言ってくれるようになった。
今では、以前よりも甘えられるようになったと思う。
渚たちも一層自分のことは自分でこなすようになったし、私の負担もかなり減っている。
それでも、毎日の食事作りは骨が折れるので、こういった休みは嬉しい。
大河くんは最近自炊を頑張るようになって、弁当や朝食、昼食作りは慣れてきたらしい。
オムライスにスプーンを入れて開くと、半熟の卵がとろっと溢れた。
いつも自分で作るものとは、また違う美味しさがある。
大河くんは半信半疑で自分のを食べて、直後に「うまっ……」と呟いた。
口下手だったはずの大河くんは、水族館の帰り道で告白してからというもの、明確な思いを口にするようになった。
私は、まだあの時の返事ができないでいる。
今までの距離が近すぎたからか、大河くんをどう見ていいのか分からないのだ。
大河くんといると安心するし、いつも見守ってくれて心強い。
一緒にいたいし、椿先輩に渡さないと言われて、ドキドキした。
でも、恋愛初心者過ぎて、何がどうなったら〝好き〟になるのか見当もつかない。
チキンライスのケチャップが甘酸っぱくて、ちょうどこんな気分だ。
突然の提案に、私は複雑な思いを抱いた。
私に頼らなくていいように、彼なりに考えてくれたというのに――それは寂しいと思ってしまう。
善意で言ってくれたと分かっているのに、大河くんが私を寂しがらせているように感じて、思わずそう言ってしまった。
気付かないうちに、彼の存在は私の中で大きくなっていたらしい。
「意地悪」と言われて狼狽えている大河くんが面白くて、私は笑ってしまった。
大河くんが期待を込めた目でこっちを見ている。
私はチキンライスを飲み込んで、ケチャップと同じくらい真っ赤になった。
もうすぐ、甘酸っぱい恋が始まる予感がする。
【完】
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。