家の前で買い物袋を受け取ろうとすると、玄関からバタバタと足音がして、千波と雷太が顔を出した。
部屋の中から私たちを見つけたようだ。
大河くんではなく別の人と帰ってきたことで、二人は硬直した。
先輩は笑って腰をかがめ、千波と雷太に顔を近づけた。
二人は興奮して甲高い声を上げ、先輩の顔をまじまじと見つめる。
千波と雷太はやっと状況が掴めてきたのか、私たちを見てニヤニヤと笑う。
千波と雷太が「お願い」と言いたげに私を見上げている。
もうこうなったら仕方ない。
大河くんがいないのは事実だし、ここまできて荷物だけ受け取って「はい、さよなら」というのもなんだか違う気がしてきた。
千波と雷太はまだ宿題にも手をつけておらず、それなのに椿先輩に遊んでもらおうとしている。
先輩に二人の遊び相手になってもらっている間、私はいつもの家事をこなしていった。
時折賑やかな笑い声が聞こえてきて、つられて私も笑ってしまう。
静かになり、家事を一通り終えて戻ってくると、椿先輩に教えられながら、二人とも集中して宿題に取り組んでいた。
先輩は穏やかに笑っていたけれど、どこか寂しそうだった。
***
私が夕食の下ごしらえに取りかかった頃、千波も雷太も宿題を終わらせて一息ついていた。
そんな会話が聞こえてきて、戸惑った。
止めようか迷っている間に、二人がペラペラと喋り始める。
子どもはこういう時、とても純粋だ。
椿先輩は、なぜそんなにも大河くんを知りたかったのか。
昼間言われたことを疑問に思っただけだろうか。
そんなことを考えていると、千波がはしゃぎながら私のところへ駆け寄ってくる。
突然そんなことを言ってきたかと思いきや、今度は雷太が後に続くようにしてやってきた。
私が頭を抱える一方で、椿先輩は嬉しそうに千波とハイタッチしていた。
***
日が暮れ始め、もう帰るという先輩を、私たちは玄関で見送ることにした。
思わないと言えば嘘になる。
でも、そうすると家族が困ってしまうから。
千波と雷太の前では本音を隠すしかなく、言い淀んでいると、雷太が私の服をぎゅっと握った。
千波と雷太なりの優しさが、じんわりと心にしみる。
一方で、私が無意識に我慢していたことを、二人に見破られたような気がして、少し気恥ずかしい。
ずっと抱えていた密かな願いを、椿先輩に引っ張り出されたような、変な感じがした。
【第11話へつづく】
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。