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第10話

家族公認ライバル
椿 和泉
椿 和泉
ここが君の家?
豊橋 七海
豊橋 七海
はい。
あの、先輩もう本当にここで……

家の前で買い物袋を受け取ろうとすると、玄関からバタバタと足音がして、千波と雷太が顔を出した。


部屋の中から私たちを見つけたようだ。


大河くんではなく別の人と帰ってきたことで、二人は硬直した。
雷太
雷太
大河くん、じゃない……。
誰!?
千波
千波
もしかして、お姉ちゃんの好きな人!?
豊橋 七海
豊橋 七海
ち、違っ……
椿 和泉
椿 和泉
あはは。
そうなってくれるといいな
豊橋 七海
豊橋 七海
なっ……!?
何言ってるんですか!

先輩は笑って腰をかがめ、千波と雷太に顔を近づけた。


二人は興奮して甲高い声を上げ、先輩の顔をまじまじと見つめる。

豊橋 七海
豊橋 七海
ほ、ほら、二人ともご挨拶は?
千波
千波
あっ、豊橋千波です
雷太
雷太
雷太です
椿 和泉
椿 和泉
はは、お姉ちゃんそっくりでいい子だな。
お兄さんは、椿和泉っていいます

千波と雷太はやっと状況が掴めてきたのか、私たちを見てニヤニヤと笑う。

雷太
雷太
お兄さん、もうちょっとお話しよ!
千波
千波
今日は大河くんも来ないから、退屈してたの
豊橋 七海
豊橋 七海
えっ、勝手に誘わないで。
先輩にも用事が……
椿 和泉
椿 和泉
俺は大丈夫。
七海ちゃんさえよければ、少し上がってもいいかな?
豊橋 七海
豊橋 七海
…………

千波と雷太が「お願い」と言いたげに私を見上げている。


もうこうなったら仕方ない。


大河くんがいないのは事実だし、ここまできて荷物だけ受け取って「はい、さよなら」というのもなんだか違う気がしてきた。

豊橋 七海
豊橋 七海
分かりました、どうぞ
千波
千波
やったー!
椿 和泉
椿 和泉
お邪魔します

千波と雷太はまだ宿題にも手をつけておらず、それなのに椿先輩に遊んでもらおうとしている。
豊橋 七海
豊橋 七海
ほら、先輩を困らせたらだめだよ? 宿題しなさい
椿 和泉
椿 和泉
俺はいいよ。
家のことあるなら、俺が二人の相手しておくから。
宿題も見るよ
豊橋 七海
豊橋 七海
そんな……いいんですか?
椿 和泉
椿 和泉
もちろん

先輩に二人の遊び相手になってもらっている間、私はいつもの家事をこなしていった。


時折賑やかな笑い声が聞こえてきて、つられて私も笑ってしまう。


静かになり、家事を一通り終えて戻ってくると、椿先輩に教えられながら、二人とも集中して宿題に取り組んでいた。
椿 和泉
椿 和泉
俺はひとりっ子だから、兄弟の居る感じってのがよく分からなかったけど、これはこれで賑やかな分、大変だな
豊橋 七海
豊橋 七海
……そうですね

先輩は穏やかに笑っていたけれど、どこか寂しそうだった。



***



私が夕食の下ごしらえに取りかかった頃、千波も雷太も宿題を終わらせて一息ついていた。

椿 和泉
椿 和泉
で、その大河くんとやらのことを詳しく聞かせてもらいたいな?
豊橋 七海
豊橋 七海
……!

そんな会話が聞こえてきて、戸惑った。


止めようか迷っている間に、二人がペラペラと喋り始める。


子どもはこういう時、とても純粋だ。
雷太
雷太
僕たちのいとこだよ
千波
千波
もううちの家族だよね。
毎日晩ご飯一緒に食べてるし
椿 和泉
椿 和泉
へえ……。
家も近いの?
雷太
雷太
うん、すぐそこ!
千波
千波
大河くんのお父さんたちはね、外国に行ってるから、大河くんの食事が心配なんだって。
お姉ちゃんは料理上手だから、うちで食べてたら安心だって
豊橋 七海
豊橋 七海
(あわわわ……)
椿 和泉
椿 和泉
なるほど、だからここで食べてるんだ。
いいなあ、羨ましい

椿先輩は、なぜそんなにも大河くんを知りたかったのか。


昼間言われたことを疑問に思っただけだろうか。


そんなことを考えていると、千波がはしゃぎながら私のところへ駆け寄ってくる。
千波
千波
お姉ちゃん! 私、和泉くんもありだと思う! かっこいいし!
豊橋 七海
豊橋 七海
はっ? えっ?

突然そんなことを言ってきたかと思いきや、今度は雷太が後に続くようにしてやってきた。
雷太
雷太
大河くんだってイケメンだよ!
千波
千波
それは分かってるけど、私は和泉くんがタイプ
豊橋 七海
豊橋 七海
本人たちを置いて盛り上がらないで……

私が頭を抱える一方で、椿先輩は嬉しそうに千波とハイタッチしていた。



***



椿 和泉
椿 和泉
じゃあ、お邪魔しました
豊橋 七海
豊橋 七海
何もお構いできずすみません
椿 和泉
椿 和泉
そんなことない。
すごく楽しかった

日が暮れ始め、もう帰るという先輩を、私たちは玄関で見送ることにした。

椿 和泉
椿 和泉
あ、そうだ。
俺にしてほしいことがあれば何でもするって言ったけど、あれ本気だからね?
豊橋 七海
豊橋 七海
そう言われましても、思い浮かばないというか
椿 和泉
椿 和泉
これだけ毎日大変なんだ。
休みたいとか、出かけたいとか思わないの?
豊橋 七海
豊橋 七海
それは……

思わないと言えば嘘になる。


でも、そうすると家族が困ってしまうから。


千波と雷太の前では本音を隠すしかなく、言い淀んでいると、雷太が私の服をぎゅっと握った。
雷太
雷太
お姉ちゃんもデートしたらいいよ
千波
千波
そうだよ。
お姉ちゃんがいない時は、みんなで協力して過ごすから
雷太
雷太
僕、いい子にする。
宿題も言われなくてもやる!
千波
千波
私も! あ、下手だけど、洗濯物も畳む!
だから行ってきて
豊橋 七海
豊橋 七海
二人とも……ありがとう

千波と雷太なりの優しさが、じんわりと心にしみる。


一方で、私が無意識に我慢していたことを、二人に見破られたような気がして、少し気恥ずかしい。

椿 和泉
椿 和泉
行きたいところがあれば、言ってくれれば連れていくよ
豊橋 七海
豊橋 七海
……はい、考えておきます

ずっと抱えていた密かな願いを、椿先輩に引っ張り出されたような、変な感じがした。



【第11話へつづく】