週が明けて、月曜日。
椿先輩は自分の弁当箱を持ってくるまで待ってと言ったけれど、早速食材の余りが出てしまったので作ってきた。
弁当箱は以前父が使っていたものだ。
朝のうちに渡せないかチャットメッセージで連絡してみたのだけれど、椿先輩はまた寝坊してしまったらしい。
そんな返事が届いているのに気付いたのが、まさに昼休み。
今からどこに持って行けばいいか聞こうと思った直後、二年の教室がやけに騒がしくなる。
悲鳴に近いような、芸能人でも目の当たりにしたかのような女子の黄色い声が響き渡った。
クラスの女子までもが、一気に騒がしくなって、私は面食らった。
そういえば、金曜日も大河くんがそんなことを言っていた気がする。
私は彼の知名度も一切知らないで、のほほんとお弁当を分け合っていたのだ。
そんな声が聞こえて、私は慌てて教室の出入り口のところに顔を出した。
隣のクラスの女子たちが、目をハートにしている。
そんな雰囲気の中で、椿先輩は私を見つけてにっこりとし、手まで振った。
この前はなんともなかったのに、酷く緊張している自分がいる。
周囲の視線を集める中で弁当を渡すなんて、一種の罰ゲームのようだ。
しどろもどろになりつつ弁当を渡すと、椿先輩はとても嬉しそうに受け取った。
先輩の姿が見えなくなってから、一斉に女子たちが押し寄せてきた。
興奮状態の女子に囲まれて、恐怖まで感じていると、急に右腕を掴まれた。
大河くんだ。
教室の外へと引っ張られ、そのまま二年校舎奥の空き教室へと連れて行かれる。
何が起こったのか未だよく分かっていない。
ひとまず、大河くんが助けてくれたということは、辛うじて理解した。
頭頂部に大河くんの軽い手刀が降ってきて、放心状態から少し回復した。
不満そうに大河くんはそっぽを向く。
負担が増えるとは、お弁当を準備する手間のことを言っていたのではなかったのか。
血の気が引く。
明日になれば噂はほとんど広まっているだろう。
彼の言うとおり、きっと作っていたはずだ。
大河くんが呆れ気味に溜め息をついた。
まさかこんな事態になろうとは、想像もしない。
大河くんの提案に納得しかけたところで、どこからともなく声が聞こえてきた。
【第8話へつづく】
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!