私は馬鹿なのか。
どうしてこれに気付かなかったのか。
先輩は、もしかして気付いているのだろうか。
次の日の早朝、私はクローゼットを開いたまま青ざめ、立ち尽くしていた。
午前中のうちに椿先輩と出かけることになり、それならとお弁当を準備するべく早起きしたのだけれど、もっと大事なものを忘れていた。
普段の休日は掃除と買い出しと料理で終わることが多く、買い出しも実にシンプルな服で出かけている。
そのため、おしゃれ着と言えるものが一着もなかった。
部屋でバタバタしていたせいか、次女の渚が私の部屋に顔を覗かせた。
渚は寝ぼけ眼のままへらっと笑い、私を手招きして自分の部屋へと入れてくれた。
洗うことに必死で、服自体を見ていなかった。
コバルトブルーのロングスカートに、真っ白なトップス、それにバッグまで。
お小遣いを貯めて、必死に選んで買ったのだろう。
汚さないよう、大事に使わなければ。
優しい妹に感謝しつつも、今の心境まではさすがに話せない。
からかいを振り切って自室に戻り、着替えて支度を済ませ、急いで家を出た。
こんな格好、まだ日曜でもないのに大河くんに見られでもしたら、絶対に変に思われる。
何も言わないでおこうと決めていたのに、歩道に出た瞬間、大河くんに出くわしてしまった。
タイミングが悪すぎる。
濁してはいるけど嘘は言わないで、走って逃げた。
なぜ誤魔化さなきゃいけないのか分からないけれど、なんとなく、本当のことを言ったら大河くんの機嫌が悪くなるような気がするのだ。
待ち合わせ場所の時計塔の下には、既に椿先輩が待機していた。
通りすがりの女の子たちが、ちらちらと彼を見ては、はしゃぐような会話をしている。
急に場違いな気がしてきて、気後れしてしまう。
一歩後ずさりしたところで、先輩が私に気付いて手を振った。
逃げようにも、先輩の方から駆け寄ってきてしまって、私はそこから動けなかった。
【第14話へつづく】
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。