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第3話

空腹で倒れていた先輩
――それは、今日の昼休みの出来事。


普段から私と一緒に昼食をとる友達二人が、昼休みに入ってすぐ、部活の臨時ミーティングに呼ばれてしまう。


他の女子グループに混ぜてもらうこともできたのだけれど、中庭に出てきていたこともあって、私はそのままひとり残っていた。
豊橋 七海
豊橋 七海
(たまには外も気分転換になるな……。天気もちょうどいいし、風が気持ちいい)

ベンチに座り、弁当箱の包みを解く。


前日の夕飯の残りもお弁当箱に詰めて持ってきているので、女子にしては量が少し多めだ。


いつもなら友達にも食べてもらうのだけれど、今日は残してしまうかもしれない。
豊橋 七海
豊橋 七海
食べきれるかな……。
いただきます!
蓋を開けようとしたその瞬間。


渡り廊下の方向から、どさっと鈍い音がした。
豊橋 七海
豊橋 七海
ひっ

何か大きなものが地面に落ちたような、そんな音。


恐る恐る行ってみると――角を曲がってすぐ、廊下と地面の間くらいに、詰め襟姿の男子生徒がうつ伏せになって倒れていた。

豊橋 七海
豊橋 七海
え、だ……大丈夫ですか!?

慌てて駆け寄り、その背中に触れると、男子生徒はゆっくり顔を上げた。


知らない人だ。


詰め襟に付いたピンバッジから、三年生だと分かる。


第一印象は、『眉目秀麗なのにやつれた人』だった。
椿 和泉
椿 和泉
大丈夫……。
お腹空きすぎて、ふらふらで、つまずいた……

彼はそう言って、青ざめた表情のまま力なく笑う。
豊橋 七海
豊橋 七海
お、お腹が空いてるんですか?
他にどこか悪いとかじゃなく……?
椿 和泉
椿 和泉
うん……。
お腹……空いてるだけ……

ひとまず怪我でも病気でもないと分かって、ほっと息を吐いた。


彼が力なく立ち上がる。


私はその肩と背中を支えて歩かせ、ベンチへと座らせた。

豊橋 七海
豊橋 七海
どのくらい食べてないんですか?
椿 和泉
椿 和泉
ええっと……。
昨日の昼にパンを食べて、それ以来だから……丸一日かな
豊橋 七海
豊橋 七海
え!? 購買はもう何もなかったんですか?
椿 和泉
椿 和泉
財布忘れちゃってさ……。
家近いし、取りに帰ろうと思って、そこでこけた
豊橋 七海
豊橋 七海
…………

お金を友達に借りようという発想には、至らなかったのだろうか。


いや、それだけじゃなく、昨夜から何も食べていないことにも事情があるのかもしれない。

豊橋 七海
豊橋 七海
(今から財布を取りに帰ったとして、戻っても購買はきっとほぼ売り切れだろうし……)

食べ盛りのはずの高校生男子がこんなにも弱っているのを、放っておくことはできなかった。


私は開きかけの弁当箱を手に取り、彼に差し出す。

豊橋 七海
豊橋 七海
あの、よかったら、少し食べますか?
いつも友達と分け合ってて、量は多めに入れてるので……
椿 和泉
椿 和泉
え……。
い、いいの!?

お節介かとも思ったけれど、意外にも、彼は嬉しそうに目を輝かせた。


やつれていた顔に、少しだけ生気が戻ってくる。


でもすぐに、周囲をきょろきょろと見回した。

椿 和泉
椿 和泉
その友達は?
豊橋 七海
豊橋 七海
部活のミーティングに呼ばれちゃって、いないんです。
私も食べきれないし。
だから、遠慮せずどうぞ
椿 和泉
椿 和泉
……ありがとう。
じゃあ、いただきます

弁当の中身は、鶏そぼろ飯と昨夜の残り物である唐揚げ、それに余り物のジャガイモで作ったハッシュドポテトと、タコさんウインナー、卵焼き、もやしの中華風サラダ。


毎朝早起きして、私と母の分を作っている。


今ではもう、趣味みたいなものだ。


友達用に予備で持っていた箸を渡すと、先輩は「いただきます」と小さく言って、卵焼きから食べ始めた。

豊橋 七海
豊橋 七海
(よく考えてみたら……初対面の人に手料理を食べさせるって初めてだ)

これで口に合わなかったらどうしよう、と一瞬不安がよぎる。


先輩はもぐもぐと咀嚼そしゃくを繰り返したあと、「うまっ」と言って、目を丸くした。

豊橋 七海
豊橋 七海
よかった……。
あ、半分くらいは食べてもらっていいので
椿 和泉
椿 和泉
めっちゃありがたい……。
お言葉に甘えさせてもらいます

箸が進むようで、それから黙々と先輩は食べ進めた。


私の分が減ってしまうことなんて、今はどうでもいい。


手料理を美味しいと言ってもらえることが、こんなにも嬉しいなんて。

椿 和泉
椿 和泉
はー……。
美味しかった。
こんな美味しいお弁当は生まれて初めて食べた
豊橋 七海
豊橋 七海
あはは。
そう言ってもらえてよかったです
椿 和泉
椿 和泉
お礼しなきゃな。
あ、名前言ってなかった。
俺は三年の椿つばき和泉いずみ
豊橋 七海
豊橋 七海
二年の豊橋七海です
椿 和泉
椿 和泉
七海ちゃんか。
覚えた

椿先輩は自分のこめかみを人差し指でトントンと叩くと、にこりと笑った。


その仕草や表情が妙に艶めいて見えて、私はドキリとする。

椿 和泉
椿 和泉
これ、もしかして七海ちゃんが作ってるの?
豊橋 七海
豊橋 七海
はい。
うちは色々あって、料理全般は私が
椿 和泉
椿 和泉
え、本当に?
俺と結婚する?
豊橋 七海
豊橋 七海
……はい?

初対面の相手からとんでもない言葉が聞こえて、私は聞き返しながら固まった。



【第4話へつづく】