私が野暮ったい服で現れたら、どうするつもりだったのだろう。
それはそれで楽しもうとしていたのか、先輩は笑っている。
私から手提げを自然に奪った先輩は、「行こう」と誘ってくれる。
その仕草があまりにも鮮やかで――先輩がモテる理由は、外見だけじゃなく、こういう振る舞いもなんだろうと妙に納得した。
***
ブティックに入り慣れていない私とは対照的に、先輩は店員さんにも堂々と話すしセンスもいい。
私はどんどん気後れしてしまい、自分の好みがよく分からなくなってきた。
煮え切らない私に、先輩がそう質問した。
どう伝えたらいいか迷った末に、おずおずと口を開く。
先輩は少しだけ唇を尖らせたけれど、すぐに表情を元に戻した。
そして持ってきてくれたのが、ベージュの布地に小花柄のワンピース。
それが一番しっくりきて、試着させてもらう。
からかわれたものの、先輩が選んだものなら大丈夫だと思えて、私はそれを購入した。
***
噴水広場は家族連れやカップルで賑わっていた。
レジャーシートを広げ、二人で向き合ってお弁当を食べる。
初めて会った日は、先輩は瀕死状態でそれどころではなかったけれど、今は生き生きしていた。
その言葉に、はっと気付かされる。
家に帰っても誰もいないというのは、きっと寂しいだろう。
どんどん食べ進める先輩はとても嬉しそうで、何か言葉をかけてあげたいのに出てこない。
先輩の笑顔を見ていると、胸の奥がきゅっとなる。
一緒にいて楽しいのに、時折寂しさも感じる、そんなちぐはぐな感情を持て余していた。
【第15話へつづく】
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。