第11話

デート?
1,977
2021/01/02 04:00
椿先輩が帰って、しばらくした頃。


ナス味噌炒め、きのこと手羽先の煮物がそろそろできあがるという時に、大河くんがやってきた。

一ノ瀬 大河
一ノ瀬 大河
遅くなってごめん。
七海、荷物大丈夫だった?
豊橋 七海
豊橋 七海
うん。
用事は無事に済ませたの?
一ノ瀬 大河
一ノ瀬 大河
ああ。
千波、雷太、宿題は終わったか?
千波
千波
今日はね、別の人に教えてもらったから大丈夫!

千波の発言に、大河くんの顔色が変わる。


名前を出していないのに分かるものなのだろうか。

一ノ瀬 大河
一ノ瀬 大河
……七海。
あの人、ここまで来たの?
豊橋 七海
豊橋 七海
うん。
帰りに会って、弁当のお礼にって色々手伝ってくれて……
一ノ瀬 大河
一ノ瀬 大河
……そうか。
くそっ
豊橋 七海
豊橋 七海
どうしたの? やっぱり、あんまり関わっちゃだめだった?

大河くんは頭を掻いて、数秒経ってから「そうじゃない」と首を振った。

一ノ瀬 大河
一ノ瀬 大河
いや、そういうのは俺が口を出すことじゃないし。
それよりも……今は、これだ

鞄から小さな封筒を取り出した大河くんは、それをずいっと私の目の前にやった。
豊橋 七海
豊橋 七海
これ、私に?
開けていいの?
一ノ瀬 大河
一ノ瀬 大河
うん

受け取って封を開けると、中身は最近できたばかりの水族館の入園チケットだった。


いつか行ってみたいと、CMを見ながら言っていたのを思い出す。
一ノ瀬 大河
一ノ瀬 大河
いつも作ってもらうばっかりで、俺、七海をねぎらうようなこと何もしてなかったと思って……
豊橋 七海
豊橋 七海
そんなことないよ。
千波たちの面倒見てもらってるし、食費だって入れてもらってる
一ノ瀬 大河
一ノ瀬 大河
それで満足してたのが恥ずかしくなったんだよ。
それ、こないだ行ってみたいって言ってたろ?
豊橋 七海
豊橋 七海
そっか……。
ありがとう
一ノ瀬 大河
一ノ瀬 大河
今はオープン直後で購入制限があって、七人分はさすがに買えなかったけど
豊橋 七海
豊橋 七海
七人分は大金だよ!?
あっ、でも二枚ある

千波と雷太が顔を見合わせて「ぐふふっ」と笑った。


大河くんは視線を逸らしてそわそわと落ち着かない。

豊橋 七海
豊橋 七海
(もしかしてこれは……大河くんと私で行くってこと?)
一ノ瀬 大河
一ノ瀬 大河
……千波と雷太はまた今度な
雷太
雷太
はーい!
千波
千波
はーい!

大河くんが頬を赤くしたまま言うと、二人は元気よく返事した。

豊橋 七海
豊橋 七海
これ、大河くんが一緒に行ってくれるってこと?
一ノ瀬 大河
一ノ瀬 大河
……来週の日曜、ここの家事は休みもらって、羽伸ばそう
豊橋 七海
豊橋 七海
う、うん……!
わ、楽しみ!

素直に喜んでいると、珍しく、大河くんが微笑んだ。


彼なりに、私を労おうとしてくれているのだ。
雷太
雷太
デートだ!
千波
千波
お姉ちゃんと大河くん、初デート!
一ノ瀬 大河
一ノ瀬 大河
ち、違う……! ただの息抜き!

私が否定するよりも先に、大河くんが焦ったようにそう言った。



***



夜、帰宅した母や渚と風太に事情を話すと、みんな二つ返事で賛成してくれた。

豊橋家・母
豊橋家・母
その日の夜は、買ってくるか出前とかにするわよ。
金銭的に余裕があれば、もっとこういう機会を入れてあげられるのに、ごめんね。
家のことは気にせず、楽しんできて
豊橋 七海
豊橋 七海
ありがとう……

張り詰めていた気持ちが、楽になった瞬間だった。


たまには息抜きしてもいいんだと思えて、ほっとする。

豊橋 七海
豊橋 七海
(でも待って……。水族館に着ていけるような服、持ってたっけ?)

そう気付いた私は、慌てて自室へと戻った。


そして自分のクローゼットを開け、愕然とする。



【第12話へつづく】

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