椿先輩まで、初めて見る真剣な表情でそう言った。
目の前で二人が睨みあっているのを、私は混乱したまま見守るしかできない。
また熱が上がってきたようだ。
私がそう伝えると、二人とも我に返ったように穏やかな表情を向けてくれた。
私が目を閉じると、二人とも部屋を出て行った。
体がだるくて頭がぼーっとするのに、心臓だけが別で暴れ回っているようだ。
そのせいで眠れず、二人が言っていたことが忘れられない。
彼らの真意を想像しては、そんなはずはないと打ち消すのを何度繰り返しただろう。
***
翌朝。
一晩寝て、私はすっかり元気になった。
家族にも大河くんにも礼を言って、それから椿先輩にも回復した旨をチャットで伝える。
『今日はお弁当いらないから、ゆっくり休んで』と返事が来たので、それに甘えさせてもらったのだが……。
結局は、朝の昇降口でばったりと会った。
礼を言おうとした瞬間、大河くんと言い合っていた真剣な先輩の姿を思い出してしまった。
ただの思い込みかもしれないと分かっているのに、ドキドキしてお礼の言葉が出てこない。
椿先輩は私の顔を見てふっと笑い、顔を近づけてきた。
耳元でそう囁かれた。
数秒置いて、私は先輩の言葉の意味を理解した。
叫んだ頃には、先輩は校舎の中に消えてしまっていた。
【第18話へつづく】
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。