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第5話

約束しちゃった
椿 和泉
椿 和泉
呆れるよね……。
どうにかしないと、とは思ってるんだけど
豊橋 七海
豊橋 七海
ああ、いえ!
うちは逆に家族が多いので、ほとんどひとりでってのも逆に大変なんだなって思ってしまって
椿 和泉
椿 和泉
そうなんだ?
兄弟が多いの?
豊橋 七海
豊橋 七海
五人姉弟です。
私が一番上で

笑ったことを誤魔化しつつ、なんとかしてあげられないだろうかと考え始めている自分がいる。


世話焼き気質というか、多分きっと、誰かに頼られることは嫌いではないんだろう。

豊橋 七海
豊橋 七海
あの……お弁当の件ですけど。
一人分増えるくらいあまり変わらないので、作ってきましょうか?

三年生は卒業まであと数ヶ月しかない。


今から始めたとしてもすぐに終わるけれど、毎日昼食の心配をするよりはいいだろう。


断られるかもと思いつつ、提案してみると、先輩の顔がみるみるうちに明るくなっていった。
椿 和泉
椿 和泉
え、初対面なのに、いいの!? 本当に!?
豊橋 七海
豊橋 七海
あはは、大丈夫ですよ

出会って早々「結婚する?」とまで言った人が、本気で驚く姿に私は再び吹き出してしまった。

椿 和泉
椿 和泉
うわ、嬉しい……。
財布忘れたのにいいことがあった……
豊橋 七海
豊橋 七海
中身はこちらで決めさせてもらいますけど、食べられないものとかありますか?
椿 和泉
椿 和泉
ううん、全然! 何でも食べる!
あ、弁当のお礼ってどうしたらいいかな。
材料費だってかかるだろうし……
豊橋 七海
豊橋 七海
いえ、結構ですよ
椿 和泉
椿 和泉
そういうわけにはいかないよ。
あ、弁当箱も買って準備するから!

そこは頑として譲れないらしい。


何かして欲しいことはないかと聞かれても、すぐには浮かばず、後回しになった。

椿 和泉
椿 和泉
とにかく、七海ちゃんに困ったことがあれば助けるし、俺にしてほしいことがあれば何でも言って
豊橋 七海
豊橋 七海
……じゃあ、その時はよろしくお願いします
椿 和泉
椿 和泉
うん。
弁当楽しみだ……。
誰かに作ってもらうの、初めてなんだ

大袈裟に聞こえるけれど、先輩はそれも本心で言っているようだ。


連絡先を交換して、先に教室へと戻る先輩を見送った。


私のアドレス帳に大河くん以外の男の人が加わるのは、初めてだ。



***



弁当箱を洗い終わって、炊飯器の釜を準備しながら、椿先輩のことを思い返していた。

豊橋 七海
豊橋 七海
私もひとりだったら、あんな風になるのかな……

大切な人のためでなく、自分のために毎日食事を用意するというのは、どうでもよくなって手を抜いてしまいそうだ。


誰かに食べてもらえるありがたみを、ひしひしと感じた。

一ノ瀬 大河
一ノ瀬 大河
何か手伝う

私がひとりごちたところで、大河くんがキッチンへと入ってきた。


腕をまくり、やる気は十分だ。
豊橋 七海
豊橋 七海
私は助かるけど、二人は大丈夫そう?
一ノ瀬 大河
一ノ瀬 大河
千波と雷太は今集中して問題解いてるし、手持ち無沙汰
豊橋 七海
豊橋 七海
分かった、ありがとう

一度手を止めて、野菜室からかぼちゃを取り出す。


かぼちゃを切るのはかなり力が要るので、それをお願いすることにした。
豊橋 七海
豊橋 七海
角切りって分かる?
一ノ瀬 大河
一ノ瀬 大河
ああ。
こないだの調理実習でやったやつな
豊橋 七海
豊橋 七海
それ。
今回は煮付けだから皮付きのまま切ってくれると助かる
一ノ瀬 大河
一ノ瀬 大河
了解

しばらく黙々と二人並んで作業をしていると、ふと大河くんが口を開いた。


彼から話題を振ってくるのは、割と珍しい。

一ノ瀬 大河
一ノ瀬 大河
今日の昼さ、元弓道部の人と一緒にいたのなんで?
豊橋 七海
豊橋 七海
元弓道部……?
ああ、椿先輩のこと? 弓道部だったの?

一瞬何のことか分からなかったけれど、昼休みと言えば彼しかいない。


あの出来事のことは誰にも話していないのに、大河くんはどこで知ったのだろうか。

一ノ瀬 大河
一ノ瀬 大河
うん。
弓道で結果出してて、割と有名な人だって聞いた
豊橋 七海
豊橋 七海
そうなんだ。
知らなかった
一ノ瀬 大河
一ノ瀬 大河
で、なんで一緒だったの?

かぼちゃを切る手は止めないまま、大河くんが続ける。


その口調が少し強くて、なぜそう気にするのか、私の疑問は深まるばかりだ。


顛末てんまつを話すと、大河くんは動きを止め、驚いた表情で私を見た。

一ノ瀬 大河
一ノ瀬 大河
それ……七海の負担が増えるだけじゃん
豊橋 七海
豊橋 七海
そうでもないよ。
お弁当は夕飯の残りを中心に詰めてるだけだし、それでも余ることがあるから調整できたらいいなって思ってて。
先輩に食べてもらえるならこっちも助かるし、だから引き受けたんだもん
一ノ瀬 大河
一ノ瀬 大河
だったらその人にあげるんじゃなくて、俺が……

大河くんはそう言いかけて、口をつぐんだ。



【第6話へつづく】