それから数日が経って、再び金曜日。
この数日間の変化があまりにも濃く、既に一ヶ月くらい経ったんじゃないかと錯覚するほどだ。
先輩には弁当を渡す度に「行きたいとこ決まった?」と聞かれているが、まだ首を横に振っていた。
大河くんと出かけることは言わない方がいい――そうなんとなく感じて、黙っている。
しかし、目下の悩みと言えば、水族館に出かけるための服がないこと。
校門から少し離れた歩道橋で、こうして手渡すのが恒例になってきた。
椿先輩は言ったとおり、弁当箱を洗い替えも含めて二つ準備してくれて、毎朝時間通りに受け取りに来てくれる。
寝坊しないために、〝本体を五十回以上振らないと音が鳴り止まない爆音目覚まし時計〟を買ったらしく、うまくいっているとのこと。
それだけ、私の作る弁当を楽しみにしてくれているのだ。
何やら心配そうに聞かれたけれど、私が否定すれば、安堵の表情に変わる。
それはきっと、私の中で、大河くんと椿先輩の存在をどう処理していいか戸惑っているから。
椿先輩は私の微妙な反応に笑い、私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
労いの言葉と優しい手のひらに、困惑する。
歳の近い相手に頭を撫でられたのなんて、初めてだ。
びっくりして、ドキドキして、訳が分からない。
俯いて頬を赤くしていると、先輩がずいっと覗き込んできた。
どうにかこの流れを誤魔化したくて、私はついそう叫んでしまった。
先輩の表情がぱあっと明るくなる。
というより、日曜日が本番なのだが、これも濁しておくしかない。
先輩はもう一度私の頭を撫でて、恥ずかしがる私を笑って見てから、一足先に学校に入っていった。
デートの定義が、よく分からなくなってきた。
【第13話へつづく】
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。