第二章 綻ぶ面影
テヒョンがジミンの口を手で塞ぐ。それはモゴモゴとした不明瞭な音に変わり、ジョングクはポカンとその光景を見つめていた。テヒョンが早急に一息着くと、何事も無かったかのようにもう一度仕切り直す。
野太い声がテヒョンの手を吹き飛ばした。驚いているテヒョンを差し置いて、ジミンはキラキラとした瞳でジョングクを見詰める。あまりの視線の熱さに流石のジョングクも戸惑った様子だ。容姿も百点満点で、気立ても良くて、器量もいい。胸の高鳴りがアルプス山脈ぐらいバックンバックンだ。
ジミンが今度は仏様のような瞳でジョングクを見上げる。肩に手を置いて、何度かポンポンとしたその行為に何の意味があるのか。テヒョン独りだけ理解出来ず、二人の独特のテレパシーに少し頬を膨らませた。ジョングクは愛想笑いで返事していたけれど、ジミンの瞳は本気と書いてマジであった。テヒョンが疑問の目で、二人を睨む形に近い形相で見詰める。
三人がその場から移動しようとした時だった。それを制止するように誰かがテヒョンの名前を大きく呼ぶ。咄嗟に振り返ってテヒョンがキョロキョロと辺りを見渡すと、額に汗を浮かべて此方に走ってくるジンを見つける。テヒョンはドン引いた顔で見ないようにしていたけれど、あまりの騒がしさに他人行儀では居られなかった。ジミンは差ほど気にしていない様子だったが、テヒョンの顔は今にもジンを殺しそう。普通に話しかければ良いものを、何故そんなに目立って登場するのか全く理解が出来ない。
テヒョンがそーっとジョングクの後ろへと隠れる。背丈は殆ど一緒だが、何故だかジョングクの方が体躯も良いので綺麗に隠れていた。突飛な雰囲気を振り撒きながら三人の元まで全力疾走してきたジンは、激しく起伏する心臓を深呼吸で宥めていた。
顔を真っ赤にしたジンが、ゴソゴソと袋を探りながらジミンの話を聞き流す。その紙袋の中に何が入っているのか。流れ行く他人の目をシカトして、三人は賜物であろうその正体に期待の眼差しを向けていた。
ジミンが嫌な予感を働かせた。その大きな紙袋に、海に行くかというあまりにもタイミングがいい質問。そして期待大のジンの満面の笑み。この展開はまさか、
やっぱりこうなるお約束か…っ。
ジョングクの反応が一番薄かったと思う。ジミンは口の中にパンを詰め込みたくなるぐらい唖然としていたし、テヒョンはダサい水着から脱走出来て嬉しいのか目を輝かせていた。だがジミンはすぐに事の重大さに気付く。
ジンの冷静な一言で怒涛のジミンタイムが停止した。確かに肌の露出を控えたいなら、ロングパンツを穿けばいい話だ。いやだが待て。
その場が凍りついた。いや御前が言うことか?と、テヒョンとジョングクが顔を強張らせる。そしてジンは「は?」と衝撃波の余韻で、顔の筋肉がイケメンのまま止まっていた。
テヒョンが冷静にジミンへ水を差した。そもそもテヒョンが着る水着なのに、ジミンとジンが口論している時点でおかしい。本人は海パンで良いと言っているのに、ジミンの過度な過保護が目立ちすぎて誰も止められないのが現実なのだろうか。いや違う。多分これは、日常茶飯事なのだと思う。
だからジョングクの素朴な疑問が、ここで提案とした形で発言された。
きっとジミンはテヒョンを心配して行っている行動だと思うが、結局はテヒョンが着るのだから最優先するべきなのは本人の気持ちだ。今まで黙って聞いていたジョングクだからこそ、一番最適な答えまでに導く。というか、多分第三者なら皆そう至る判断だと思う。
ジョングクがジミンとジンを交互に見る。ジンは初めて会った男に動揺を隠せていなかったが、質問の答えとしては納得していたみたいだった。そして一番重要なジミンはと言うと、
何とあっさり承諾。テヒョンは不本意にも「えっ?」と疑問の音を洩れらした。「ちょ、ごめんね」とジョングクとジンをかき分けると、テヒョンはジミンに耳打ちをする。あんなにも熱狂的に語っていたのに、正反対の態度と熱の真逆アイスを食べに行こうなんて全くおかしいじゃないか。
するとジミンがニンマリと笑った。小声でぼそぼそ話す二人を注視する中、テヒョンモンペが耳元で囁き返す。
満足気を含む声にテヒョンは思い切り顔を顰める。意味が分からずにジミンの顔を見てみると、何やら上機嫌の様子で。一体今の間で何が起きてこうなったのか、ジョングクとジンを見比べたりするけれどイケメンとだけで後は何も違和感はない。親友の豹変っぷりにテヒョンは少し不気味さを覚えながらも、その日の買い物は何と平和に終了した。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!