第10話

綻ぶ面影(壱)
12,634
2022/08/18 06:06
テヒョン
テヒョン
一体何だったんだろう…
ジョングク
ジョングク
ああ、テヒョンイヒョンの親友さんですか?
テヒョン
テヒョン
ねえジョングガ。ずっと気になってるんだけど、何で頑なに名前呼ばないの?
ジョングク
ジョングク
違和感ありますか?
テヒョン
テヒョン
うん、すっごい。俺みたいにヒョン呼びしてあげるとジミニも喜ぶよ
ジョングク
ジョングク
別ですから
テヒョン
テヒョン
別って?
ジョングク
ジョングク
あなただから呼んでるんです
 街灯の灯りが色味帯びて来た頃、横に並んで帰っていたふたりの空気が少しズキンとした。テヒョンが小さく困惑して、「からかわないで」何て笑い誤魔化す。定期的なリズムの足音。やはり帰り道は人気の少ない裏道。テヒョンの歩調に合わせて歩いてくれるジョングクがその笑顔をどこか儚げに受け取ると、小さく笑って一言付けたした。
ジョングク
ジョングク
真剣ですよ。でもテヒョンイヒョンがそんな顔をすると、少し悪戯はしたくなるかもしれません
テヒョン
テヒョン
へ?
ジョングク
ジョングク
あんまり見せちゃ駄目ですよそういう顔。親友さんに怒られちゃいます
テヒョン
テヒョン
俺は別に何も
ジョングク
ジョングク
無意識なんです。無意識だから、少しだけ危なっかしい
テヒョン
テヒョン
そうかな?俺ってそんにコロコロ変わってる?
ジョングク
ジョングク
ね、テヒョンイヒョン
テヒョン
テヒョン
っ…!
テヒョンの足元がおぼついた。でもそれは他者からのスキンシップで困惑したから、と説明するのが最適かもしれない。ジョングクが腰を引き寄せて、態と顔を近づける。その瞬間にテヒョンの脳内では、パーティーでの夜の事がチカチカと回想されていた。あの夜も、こんな感じだった。貪るみたいな、そんなキスを何度もされた記憶がある。
テヒョン
テヒョン
ちょっ…ぐ、グガ離して…
ジョングク
ジョングク
ほら、そんな顔です
テヒョン
テヒョン
何もしてなっ
ジョングク
ジョングク
そうですか?じゃあこっち見てください。目を逸らさないで、ちゃんと俺を見て
テヒョン
テヒョン
お願いだから意地悪しないでグガ…ぅあっ
ジョングクがテヒョンの顎をすくい上げた。ほんのりと瞳を閏わせて、ふるふるとジョングクを見上げる。頬は真っ赤で、どう見たって煽情的な表情をしていた。
ジョングク
ジョングク
はぁ…それが無意識なんて狡いです
テヒョン
テヒョン
……っ
ふにふにとした柔和な頬が、ジョングクによって紅潮している。真っ赤な頬をなぞり上げるジョングクの指先。それに過剰な反応をして恥ずかしがるテヒョンは、優秀な執事としての密かな加虐心を煽って行った。擽ったそうに唇を震えさせるテヒョンに対して、ジョングクは優しくその唇を親指でなぞってやる。
ジョングク
ジョングク
テヒョンイヒョン
テヒョン
テヒョン
…っん
綺麗に整えられた爪。ふにっと唇が割り開かれると、ただでさえ近かったジョングクの顔が、更に妖艶に近づけられた。テヒョンはこれからされる事を予想して、ぎゅっと目を瞑る。咄嗟な防衛反応と云うべきか、身構えと云うべきか。引き寄せられた華奢な腰が、逞しい腕によって更に囚われた。

──キス、される…っ。

また、あのパーティーみたいなキスをされるのだろうか。舌から直結される、痺れるような快感がまた、今日? そんな事がテヒョンの脳裡でグルグルと回り、真っ暗な視界がチカチカとする。けれどいつまで経っても覚悟した感触が来ないから、テヒョンは不思議に思って目をゆっくりと開いた。そうするとそこには、アイスクリームみたいに甘い視線を注ぐジョングクが、テヒョンを愛おしそうに見詰めていたのだ。
テヒョン
テヒョン
ふぇ…
ジョングク
ジョングク
御免なさい、意地悪しすぎました
そこでテヒョンは、今更ジョングクの思惑通りに揶揄われたのだと察知した。その瞬間にテヒョンの顔面は、ボフンッ、と噴火したみたいに真っ赤になって行く。ただでさえ大きな目をこれでもかと見開いて、あわあわと動揺している。何を言ったらいいのかも分からないのか、口をハクハクとさせてただ目を泳がせるテヒョン。何とか考えついた言葉が、いかにも単発的なものである。
テヒョン
テヒョン
お、おおお前趣味悪い…っ!
ジョングク
ジョングク
御免なさい。あまりにも可愛かったので
テヒョン
テヒョン
かっ…。お、俺は可愛くない……
ジョングク
ジョングク
でも待ってたじゃないですか、キスされるの。それこそ凄く可愛かったですけど
あまりにも優しかった。視線も、声色も、触れ方も、全部が空の雲を触るみたいな触れ方で擽ったい。それが歯痒くて、恥ずかしくて、実に居た堪れない気持ちになる。それに世に云うキス待ち顔までジョングクに見せてしまう何て、もはやテヒョンの男としてのプライドはズタボロだ。本当、羞恥心でどうにかなりそう。
テヒョン
テヒョン
も、からかわないで…こ、腰も離して……
ジョングク
ジョングク
あぁ、すみません。贅沢をしたくて少し勿体ぶりました
今にも溢れ出てきそうな涙。熱を帯びらせた頬がもう一度正面に向かされると、ジョングクは極自然にテヒョンの唇へと噛み付いた。最初はちゅ、と啄んで、もう一度唇を重ねた時は貪るようなキスをする。器用にテヒョンの唇を舌で割り開き、ぢゅっと舌を絡め取った。
テヒョン
テヒョン
っん…ぅ…! ぅっ、ん、んぅ〜っ!
テヒョンが筋肉質なジョングクの腕を掴んで、逃れようと一生懸命にポンポンと叩く。けれどがっしりとホールドされたテヒョンの腰はビクともせず、そのまま壁までに追いやられてしまった。もっと入り込んでくるジョングクの舌。巧みに口腔内を犯されていって、テヒョンは腰の力が段々と抜けてしまう。
テヒョン
テヒョン
…ぅあ……
ジョングク
ジョングク
ん、立てますか?
ようやく抜けて行ったと思ったら、腰はガクガクと震えている。妖艶に舌なめずりをするジョングクを見て、テヒョンのあるはずもない子宮がズクンと疼いた。恍惚とした眼差しで、ジョングクを見上げるテヒョン。その蕩けた顔にジョングクの色慾が脈を打ち出す。そして欲しいという刹那的な衝動。だがそれをグッと歯を食いしばって堪えると、ジョングクは脆弱になったテヒョンの足腰をリードして立たせた。
テヒョン
テヒョン
ぁ、歩ける、から……っ
もう何がなんだか分からない。テヒョンは顔面から火が出そうなのを我慢して、その代わりに涙をポロリとつたわせた。恥ずかしい。そう思わなきゃいけないはずなのに、テヒョンの頭の中じゃ気持ちいい何て感情が先を走っていたんだ。強姦されそうになったあの夜。あの男からのキスは一切そんな事無かったのに、何故ジョングクだと気持ちいい何て思っちゃうんだろう。そんな自分に酷く驚いて、呆れて、そしてジョングクという男がどれだけ自分にとって存在が大きいのか。熱い熱い熱を通して、テヒョンは痛感した。


 ビキニ、浮き輪、ラムネ、ボート、砂浜、海岸、海。ここは正しく、夏のイベント会場のシー! 結局ダサい水着から逃れ、優しいジンお兄さんから貰った水着で参戦したテヒョン。勿論親友の長い長いお話をちゃんと聞いて、ロングパンツもパーカーも着てきた。もうこれで文句言われるなら、この先永遠フルシカトとテヒョンは既に忠告済みである。だが問題はそこではない。とてつもなくそこではない。
テヒョン
テヒョン
お、お、おお、おはようジョングギャ…っ、い、今のは噛んでないっ!
ジョングク
ジョングク
大丈夫、ですか…?
 成人男性キムテヒョン。あの夜のキスからとても気まづくて、顔すらまともに見れません…!!

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