第15話

綻ぶ面影(肆)
8,397
2022/08/18 06:08
このまま塗らせては腕が真っ白になりそうなので、ジョングクはすらりと提案した。
テヒョン
テヒョン
え、いいよ。自分で塗れるし
「いや絶対真っ白になるだろ」と内心でジョングクが吐くも、そんな事は言えないのでまた丁寧な言い方で促す。
ジョングク
ジョングク
それ全部使うつもりですよね? 多分ベタベタになりますから、俺が調整しますよ
もはや提言ではなく、実行型で発言されている。何だかジョングクの目から圧を感じたテヒョンは、致し方なく頷いた。掌に乗る大量の日焼け止めを後ろから掬うと、ジョングクは適量のクリームをテヒョンの腕に拡げていく。何だか上着を丸ごと脱いでもらえばよかったものの、変に気を遣って肩の部分から服を引きずり下ろしてしまいパーカーがはだけたみたいになっているのは不慮の事故というべきだろうか。さらりとしたテヒョンの腰にパーカーが落ちて、無駄に厭らしい雰囲気になってしまう。右腕を塗り終えて、次に左腕へとクリームが乗せられる。先程まであんなに駄弁っていたのに、何故こんな肝心な時に静かになるのだろうか。ジョングクの指がテヒョンの手首から肩までにクリームを塗っていって、その度に触れられた部分が熱を灯していく。
テヒョン
テヒョン
グガ、や、やっぱり俺で塗るよ
ジョングク
ジョングク
それ全部使うつもりですか?
テヒョン
テヒョン
うん……
ジョングク
ジョングク
じゃあ駄目です
そうして足指の先や首筋などをされるがままに塗られていったテヒョンは、擽ったさと歯の奥が痒くなるような恥ずかしさに駆られながら何とか最後まで耐えきった。別に衝撃的な触り方なんてされていないのに、基本触られもしない部分をじっくりと愛撫されると変な気分に陥ってしまう。頭が蒸発しそうな程感情がいっぱいいっぱいになって、身動きがとれない状況じゃただじっとする事しか出来ないから息が詰まるのだ。ジョングクが手に付いたクリームをティッシュで拭き取ると、テヒョンにとっては終了のお知らせになりハッと肩の力が抜けていく。
テヒョン
テヒョン
あ、ありがとうね
ジョングク
ジョングク
待ってください
漸く終わったと思って息を抜き始めていたテヒョンに、ジョングクはまだ意地悪をするみたいだ。着崩れた服を着なおそうとしていたテヒョンの動きを後ろから手を回して制すると、空いていた片手でテヒョンの視界を塞ぐ。いきなり光が無くなって困惑するテヒョンに「心配なので、魔除けです」と、呟いたジョングクは、その直後なめらかな肩にちゅうっと唇を寄せては痛みがするぐらいに吸った。
テヒョン
テヒョン
んっ……
白皙はくせきとした肩がびくりと震える。
テヒョン
テヒョン
ジョングガ……?
何が起こったのか。流石のテヒョンでも有耶無耶うやむやに分かる気がするが、ちゃんとした理解がほしい為に名を呼ぶ。ジョングクのふっくらとした唇の感触が肌から離れていくと、ジンジンと熱を籠すそこを指でぐっと撫でられた。同時に視界へ光が戻り、テヒョンの大きい目がパチパチと瞬きされる。
ジョングク
ジョングク
そんなに濃くはつけていませんから、すぐ消えると思います
テヒョン
テヒョン
……! な、何してっ
ワンテンポ遅れてテヒョンが問いた。パーカーを羽織るのすら忘れて体ごと振り向くとばったりジョングクと目が合って、テヒョンがかぁぁあっと顔を赤らめていく。
ジョングク
ジョングク
こんなテヒョンイヒョン、他の人に見られたら堪らないので
と、スパダリ執事が肩からずれ落ちて床にはたりと落ちたパーカーを正しくテヒョンに着せてやる。一度誘い受けをしてしまった身としては今更上半身を見られて恥ずかしがるのも可笑しいと思うのだが、何故だが胃液が出てきそうな程緊張してしまうのだから不思議でたまらない。テヒョンがジーッとチャックの閉まっていく音を耳で追うと、何も言うことが思いつかないのか、そのまま俯いて「も、もう行こう」と逃げだすみたいに部屋から出て行った。

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