朝はあれだけ緊張していたのに、そんな様子は何処に行ったのやら。何がテヒョンのスイッチを入れ替えたのかは知らないが、きっと本調子を取り戻してきたのだろう。その証拠が爆弾発言であり、その爆弾は先程ジョングクに向けて何なりとかまされた。
「はっ?」と現を抜かすテヒョンに対して、ジョングクはゆっくりと顔を近づけ始める。腕だって抑えていないし、足も執拗に絡めていない。拒絶しようと思えばジョングクの胸を押して顔を背けられるのに、ただ頬を紅潮させて困惑するテヒョンはジョングクからのキスを受け入れているという判断をして正解なのではないだろうか。逃げられる時間はたっぷりと与えた。それでも受け入れたのはテヒョンで、今度は「反応できなかったから」という理由は通用しない。赤く血色のいいジョングクの唇が、テヒョンの薄い下唇を甘噛みして啄んだ。薄い皮膚が粘膜でくっつき合って、互いの唇が離れる度小さく唇の先を引っ張られる。それを何度か繰り返している内に貪るような深いキスに変わっていって、突如ジョングクの舌がテヒョンの唇を割り開いた。「んっ」と低く甘い声が洩らされると、ジョングクは更に加速してテヒョンの口腔内を愛撫し始める。上顎や歯列、舌の裏だったりと、そうやって入念に嬲ってやるとテヒョンはすぐに体の力を抜かしてとろんとした眼をするのだから、本当にジョングクは堪らない。なのにこれがじゃれ合いっこなんて本当にふざけている。せめてスキンシップと言われた方がマシだ。確かにキスは強引だけれどちゃんとした愛情表現であって、ジョングクからすると精一杯のアピールなのに、それを子供のようなじゃれ合いっこで済まされては困るのだ。
濡れぼそった唇がジョングクの名を呼ぶ。果実のように赤くなったテヒョンは耳までしっかりと赤面していて、この猛暑日も踏まえてなのか妖艶に汗まで浮かせていた。
今にも泣きだしそうな顔をテヒョンは腕で隠して、最後の方は力尽きたのかぼそりと嘯いた。
だがジョングクは遠慮しない。たった今貪ったその口から「違う」と言われるまでは、何としてでも食い下がれなかった。だって悔しいじゃないか。こんな過度なスキンシップまでしといて、いつまでも「友達」「じゃれ合い」なんて、もはや怒りすら涌いてくる。テヒョンの貞操観念は一体どうなっているのだろうか。ここまで警戒もクソも無いなら、あの「お友達さん」にも全部許している気がする。
男が簡単に盛るようなテヒョンの顔は、ジョングクの嫌な妄想も容易に彷彿とさせ、そのせいでスパダリ執事の加虐心がまた拍車をかけた。
阻止しようとしてくるテヒョンの腕をジョングクはいとも簡単に片手で束ね、それを頭上に固定するともう片手でテヒョンの上着を脱がし始めた。それで冗談じゃないと思い知ったテヒョンは慌てて口を開き、ジョングクに叫ぶよう訴えかける。
すると、さっきまでの力が嘘のようにテヒョンの手首が軽くなる。更には至近距離にあった端正な顔すら遠ざかっていって、可笑しなことに「大丈夫ですか?」と手を差し伸べられるものだから、テヒョンは大きく舌を巻いてしまう。何も言葉が出てこない。
理解に追いつけないし、視線が痛い。これがジョングクじゃなければ十分な凌辱として決別しているところだ。こんなにも観光客などが多い中で公開ディープキスなんて、テヒョンの永遠の黒歴史に違いない。テヒョンが「うぅ……」と、悄然に俯くと、ジョングクが申し訳なさそうに詫びる。だがジョングクの我慢もいいところで逆によく耐えていると思うのだが、テヒョンにはきっと理解が出来ないと思うと実にジョングクが不憫だ。テヒョンには悪いが、今回はきっとジミンもジョングクの肩を持つと思うから、どうか強く生きてくれ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!