『Ring! Ring! Ring!』
☆21☆
帰り道は、
モヤモヤした私の心との格闘だった。
あの重岡くんが、告ってくれたんだよ??
なのになんで?
調子に乗ってるの?
自問するけど、自答は返ってこない…
トボトボ歩く私と並行する自転車も、沈んで見えた。
家に着き、そんな自転車に「ごめんね…」と呟く。
望「自転車に なに言うてん?」
望も ちょうど帰ってきたのか、私の隣に自転車を止めた。
〇「………なんで?」
望「は?」
〇「望は なんで家にきたの?高校なら大阪にだっていくらでもあるじゃん…」
望が返答するまでの沈黙の時間。
私は…期待していた。
望「・・・お前が来ないからや…」
〇「え?どういう…」
望「分かんないなら、ええ…」
望は呆れた様にそう言うと、それ以上は会話したくないといった様子で、そそくさと家へ入っていった。
なんなのよ!
☆22☆
意味わかんない!!!
そんな答えで分かるわけ無いじゃん!!!
いつも 口数 少なくて!
いつも 嫌がる事ばっかして!
いつも 邪魔してきて!
いつも いつも いっつも…
たくさんの望との出来事が…
私にたくさんの気持ちを与えてくれていて…
望が 傍にいる今を、
私に認識させた。
幼い頃は、長いお休みには必ず行っていた。
〇「の〜んちゃんっ!来たよっw」
望「おう 〇〇!待っとったでw」
叔父さんや叔母さんに挨拶もしないで、速攻 望の部屋に行ってたなw
小学校の高学年になり、部活や友達が生活の中心になってきて、いつしか私は、ひとり留守番する様になっていた。
だからって…居候する?
全然 分からないよ!!!
ムシャクシャした。
☆23☆
玄関に靴を脱ぎ散らかし、階段をドカドカ登って、望の部屋の扉を勢いよく開けた!
望「っ!おまっ、ノックせーよッ!!!」
〇「ぜんっぜんッ!分っからないよッ!!!」
望「うっせーな…」
〇「ホラそれ!いっつも そーやって何も言ってくれない!!!」
望「さっき言ったやろっ!」
〇「言ってない!」
望「はぁん?これ以上言ってどうすんねんッ!!!」
〇「は?それどういう意味よッ!私には知る権利もないって言うのッ?望にとって私って何なのよッ!!!」
望「キスしとったやろーがッ!!!」
〇「っ!!!」
見てたんだ…
〇「……キス…されたら…いけなかった…?」
黙り込んだ望は うつむき、私を見てはくれない。
〇「……告られたら…いけなかった…?」
何も答えてくれないのか…
喉の奥がツ〜ンとする程、堪えた涙。
〇「分かったよ…望の気持ち。」
☆24☆
っ!!!な、なに?!!!
立ち去ろうとした時、腕を思いっきり掴まれ、ベットに放り投げられた!
望は私に馬乗りになると、手首を抑えつけ、決して優しくはない表情で、私を見つめた。
その表情がチョットだけ緩やかになり、顔が近づく…
期待と不安が入り混じっていて…
いま自分が、どんな顔をしてるのかも分からない。
えっ……
唇の手前で止まって、悔しそうに目線を外すと、望は私の上から降り、力が抜けた様に床に座った。
髪をかきあげ、グシャグシャしながら、
望「…アイツが、ええんやろ?」
そう言うと、また私を見なくなった。
ベットの上の状態から動けずに、堪えていた涙が溢れた。
少しして、ゆっくり起き上がると、悔しさが込み上げてきた。
☆25☆
〇「望が居ても、何のメリットもないっ!むしろ、デメリットだらけッ!」
えっ…
望も、そんな顔するんだ…
傷ついた様なその表情は、自分の言葉を後悔させた。
心にもない事…
ううん、本音だよ。
傍にいるだけで、何のメリットも無い。
私達の関係は…
崩れていった。
か「どうしたの?朝からずーーーーーっと、ボーっとして?」
〇「うん…」
そんな親友の問いにも答えられないくらいだよ。
何もかもを吸収してしまいそうな、真っ青な空と、ゆっくり流れる雲が、私の後悔を包み込んでくれているかの様だった。
でも、何も変わらない…
〇「…あのね……」
私は窓のレールにアゴを乗せ、そんな空を見上げながら、ゆっくりと呟くくらいの声で話し出した。
〇「告られた…」
☆26☆
き「えっ!誰に?だれに?望くん?」
〇「望?…誰それ…」
か「や、従兄弟に告るとか無いでしょ?!」
き「んじゃあ……だれ?全く思いつかない!」
〇「…ふっw」
か「て、鼻で笑ったよ!どした?大丈夫?」
〇「…望が告るわけ無いじゃん……ケンカばっかだよ……」
呟きと涙が、同じタイミングで溢れた。
私…なんで泣いてるんだろう…
き「ねぇ〇〇?」
私の涙を拭いながら、優しく語りかける。
き「気付いてるんなら、素直になれば?」
今更…
〇「たぶん…もぅ遅いよ……」
か「だね。」
き「えっ?どうしてよ!」
か「さっき見ちゃったんだよね…望くん…」
き「何をっ?何を見たのっ?」
か「………キスしてた。」
〇「っ!!!」
苦しい…
☆27☆
苦しい…
き「…っ…〇〇?…ねぇ大丈夫?真っ青だよ!!!」
か「っ!これ、ヤバいやつだよ!先生呼んでくる!!!」
重りをつけられ、
深い深い 海底へと沈んでいく様だった…
これから先は…………………闇しかない…
……えっと…ここは…
白い天井。
どうやら海の底では無いらしい。
私は硬いベッドに寝かされていた。
どのくらい、ここで眠ってたんだろう…
閉まっていた白いカーテンが少しだけ開き、
き「お!起きた?」
か「〇〇 大丈夫ぅ?」
〇「あ〜たぶん…今 何時間目?」
オーロラ姫くらい、眠っちゃった気分なんだけど…
重「もう、授業 終わってんで〜w」
急に、カーテンからひょっこり顔を出すから、
き「っ!!!し、重岡くんっ!!!」
か「えっ?マジっ??」
ふたりの驚きが、ハンパない…
☆28☆
重「大丈夫なんか?」
〇「う、うん。だ、大丈夫…だと思う。ご心配お掛けしました。」
重「おん。それもそうなんやけどぉ…一緒に帰らん?」
か・き「え"ぇぇぇーーーッ!!!」
ですよね〜
私と重岡くんが、お近づきになれるなんて…
意外だよね。
誰もが、そう思うよね。
〇「や、今日は…てか 今日も、このふたりと帰るから。」
重「ほなら、俺も一緒に ええ?〇〇がまた倒れないか、心配やから。…なっ?」
まただ!「なっ?」って……
ドシッ!!!えっ?なに??
ベッドの上に、私のカバンが降ってきた。
望「帰んぞ。」
き「望くん!!!」
望と目が合うと、反射的に逸らしてしまった。
苦しい…
また、さっきの感覚だ…
望「行くぞ。」
〇「・・・・どうして…」
☆29☆
望「ひとりで倒れられたら困るやろ。早よせ。」
〇「…私なら…大丈夫だから。」
望「先生に連れて帰れって言われとるんや!」
〇「…迷惑でしょ?他の女の子と帰りたいのに?」
望「は?何言うてんねん?」
〇「大丈夫。私…重岡くんと帰るから。ねっ?重岡くん…送ってくれるんだよね?」
私は助けを求める様に、重岡くんを見た。
重「…お、おん。」
望「先生に言われてんだよ。」
か「それはさぁ?どういう意味?」
望「は?」
か「〇〇が心配なの?それとも先生に言われたから、義務?」
望「どっちでもええやろ?」
か「どっちでもいいなら、望くん じゃなくてもいいんじゃないの?」
かすみ…
恐らく、かすみもショックだったんだ。
望のキスの現場なんて…
重「俺が送ってくわ。」
望の目を、真っ直ぐ見て言う重岡くんの、強い気持ちが伝わる。
望「勝手にしろ。」
そう言い残して、行ってしまった。
☆30☆
帰り道の事は…あまり覚えてない。
かすみ と きょうか は、重岡くんに私を託し、私は重岡くんとふたりきりだった。
なのに…
覚えていない。
気付くと もう家で、
私の自転車を重岡くんが止めていた。
重「アイツ、もう帰っとんな。」
望の自転車が、隣にあった。
〇「うん…ありがとね…」
そう簡単にサヨナラをしようとする私。
重「〇〇?」
〇「ん?」
振り返ると、そっと抱きしめられた。
重「行かせたない…アイツんトコ…」
家が同じってだけで、別に望に帰るワケじゃない。
帰りたくっても…
なのに…
〇「ごめんなさい。やっぱり私…」
重岡くんを振るなんて…
あり得ないのに…
重岡くんの体を、そっと突き離した。
〇「お付き合いは…できません。」
馬鹿だ。私は。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。