岸優太はいつものように笑顔で病室へ入った。
ベッドに座っていたみうは、その一言で顔を強張らせる。
首をぶんぶん振るみう。
優太はベッドの横まで来て、目線を合わせるようにしゃがんだ。
あなたの目にはもう涙が浮かんでいる。
優太は困ったように笑った。
この反応は珍しくない。
あなたは昔から点滴が大の苦手だった。
だから無理やり腕を掴むことはしない。
落ち着くまで待つ。
それがいつものやり方だった。
そう言って椅子に座ろうとした、その時だった。
あなたが突然ベッドから飛び降りた。
病室を飛び出そうとする。
優太は慌てて追いかけた。
病室の入り口で追いつき、転ばないように腕を軽く掴む。
パニックになったあなたは、振り払おうと必死だった。
その瞬間。
バシッ――。
優太が小さく顔をしかめた。
勢いよく振り払ったみうの手が、優太の手の甲に当たった。
爪が引っかかり、赤い線が一本走る。
じわっと血が滲んだ。
優太はすぐに手を後ろへ隠した。
笑ってみせる。
でも、そのやり取りを病室の外で聞いていた人がいた。
低い声が響く。
二人が振り向く。
そこに立っていたのは永瀬廉だった。
カルテを片手に持ったまま、優太の手を見る。
廉は何も言わず、あなたへ視線を移した。
あなたの唇が震える。
小さな声だった。
廉は病室へ入り、ドアを閉めた。
いつもの柔らかい表情じゃない。
あなたはそれだけで泣きそうになった。
あなたはゆっくり近付く。
目はもう真っ赤だった。
あなたは少しだけ安心した。
でも次の言葉で肩が震えた。
廉の声が少し厳しくなる。
あなたはゆっくり優太の手を見る。
さっきより血が滲んでいた。
涙がぽろっと落ちる。
廉は優しく、それでも真剣に言った。
その言葉に、あなたは完全に俯いた。
優太は自分を助けようとしてくれていた。
なのに。
自分は傷つけてしまった。
涙が止まらない。
優太は慌てて近寄る。
廉が優しく止めた。
廉はもう一度あなたを見る。
あなたはゆっくり優太の前へ行った。
涙でぐしゃぐしゃの顔のまま頭を下げる。
優太は少ししゃがみ込み、あなたと目を合わせた。
その一言で、あなたは声を上げて泣いた。
優太はそっと頭を撫でる。
あなたは何度も頷いた。
その様子を見ていた廉も表情を和らげる。
あなたはまた涙を流した。
病室の空気が少しだけ柔らかくなる。
優太は絆創膏を貼りながら笑った。
あなたは不安そうに見つめる。
あなたは少し黙ってから、小さく右腕を差し出した。
優太は嬉しそうに微笑んだ。
今度はあなたも逃げなかった。
廉の手をぎゅっと握りながら、隣で「大丈夫や」と声を掛ける。
数分後、点滴は無事に終わった。
あなたは涙を拭きながら優太の手を見る。
それでもあなたは申し訳なさそうに傷口を見つめていた。
優太はその頭をぽんと軽く撫でる。
廉も穏やかな声で続ける。
あなたは小さく返事をすると、二人の顔を見て少しだけ笑った。
まだ点滴は嫌い。
きっと次も怖くなる。
それでも今日のことは、忘れない。
怖くても、ちゃんと言葉で伝えること。
そして、自分を助けようとしてくれる人を傷つけないこと。
あなたは胸の中で、その約束をもう一度そっと繰り返した。
リクエストありがとうございました‼️💝
















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。