第4話

ふあん
767
2026/06/20 13:36 更新
 夜勤の日はいつも病棟が静かだ。

 消灯も終わって、患者さんたちもほとんど寝ている。

 俺はナースステーションで記録を書いていた。

 その時だった。

 廊下の向こうに見慣れた姿が見えた。
岸
…あれ?

 点滴台を押しながら歩いている女の子。

 あなただった。
岸
あなた?
(なまえ)
あなた
ひゃっ!

 びくっと肩を震わせて振り返る。
(なまえ)
あなた
なんだ、ゆーたくんか
岸
なんだってなんだよ笑
岸
何してんのこんな時間に
(なまえ)
あなた
寝れなくて
岸
あー…

 あなたは昔からそうだった。

 入院すると夜に不安になる。

 昼間は平気そうにしてても、夜になると急に心細くなるのを俺たちは知っていた。
岸
散歩?
(なまえ)
あなた
うん
岸
1人で?
(なまえ)
あなた
うん
岸
危ないから俺と歩こっか
(なまえ)
あなた
…うん

 二人でゆっくり歩き始める。

 窓の外は真っ暗だった。

 あなたも黙ったまま外を見ている。
岸
眠れない?
(なまえ)
あなた
全然
岸
苦しくないか?
(なまえ)
あなた
へーき
岸
そっか

 でも顔色はあんまり良くない。

 なんか考え込んでる顔。
岸
不安?
(なまえ)
あなた
…ちょっと
岸
何が?
(なまえ)
あなた
また発作起きたらどうしようとか…
岸
うん
(なまえ)
あなた
退院できるかなとか…

 俺は頷くだけにした。

 無理に励ますのも違う気がしたから。

 あなたはそういう時、誰かに聞いてもらうだけで少し楽になるタイプだ。
岸
怖いよな

 そう言うと。

 あなたは小さく頷いた。

 その時だった。
永瀬
永瀬
何してんの2人

 後ろから声がし、振り返ると廉がいた。

 カルテを持ちながらこっちへ歩いてくる。
(なまえ)
あなた
あ、廉せんせこんばんは
永瀬
永瀬
こんばんはちゃうやろ?

廉が呆れた顔をする。
永瀬
永瀬
病室抜け出しとるやん
(なまえ)
あなた
ちょっとだけだから
永瀬
永瀬
ちょっとだけちゃうねん

 あなたが少ししょんぼりする。

 廉はその顔を見ると苦笑した。
永瀬
永瀬
ごめんごめん怒ってへんて
(なまえ)
あなた
ほんと?
永瀬
永瀬
ほんま

 その瞬間ちょっと安心した顔になる。

 分かりやすいなぁと思った。
永瀬
永瀬
寝れへんの?
(なまえ)
あなた
うん
永瀬
永瀬
なんで
(なまえ)
あなた
なんか…

 あなたが俯く。

 廉もそれ以上聞かない。

 俺たちはあなたのこういう時を何度も見てきた。

 無理に聞くより待った方がいい。
永瀬
永瀬
ナースステーション来るか?
(なまえ)
あなた
え?
永瀬
永瀬
一人でうろうろされる方が困る

あなたが俺を見る。
岸
行くか?
(なまえ)
あなた
行く…

 こうして三人でナースステーションへ戻った。

 あなたは椅子に座る。

 俺は記録。

 廉はカルテ確認。

 でも時々話しかける。
岸
学校はどう?
(なまえ)
あなた
ふつう
岸
友達は?
(なまえ)
あなた
ふつう
永瀬
永瀬
それしか言わんやん笑

 廉が笑う。

 あなたも少し笑った。

 さっきより顔色がいい。

 やっぱり一人でいるのが不安だったんだろうな。

 しばらくして。

 ふとあなたを見ると眠そうに目をこすっている。
岸
あなたさん
(なまえ)
あなた
んー…
岸
眠くなってきたか?
(なまえ)
あなた
ちょっと
岸
病室戻ろっか

 こくりと頷く。

 さっきまで眠れないって言ってたのに。

 俺は思わず笑った。
(なまえ)
あなた
ゆーたくん
岸
ん?
(なまえ)
あなた
ありがと
岸
どういたしまして

 病室へ戻る。

 ベッドに横になったあなたは、もうかなり眠そうだった。

 毛布をかけ直してやる。
岸
おやすみ
(なまえ)
あなた
おやすみ…
永瀬
永瀬
今度は抜け出したらあかんで?
(なまえ)
あなた
…うん
永瀬
永瀬
まぁ、不安になったらナースステーションおいでな
(なまえ)
あなた
…うん

 返事もだんだん小さくなる。

 もう半分寝てる。

 俺と廉は顔を見合わせて笑った。
永瀬
永瀬
まだまだ子どもやな笑
岸
そうだね笑

 病室を出る直前。

 振り返る。

 あなたはもう眠っていた。

 さっきまで不安そうな顔をしていたのが嘘みたいに。

 俺は少し安心しながら、静かに病室のドアを閉めた。

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