夜勤の日はいつも病棟が静かだ。
消灯も終わって、患者さんたちもほとんど寝ている。
俺はナースステーションで記録を書いていた。
その時だった。
廊下の向こうに見慣れた姿が見えた。
点滴台を押しながら歩いている女の子。
あなただった。
びくっと肩を震わせて振り返る。
あなたは昔からそうだった。
入院すると夜に不安になる。
昼間は平気そうにしてても、夜になると急に心細くなるのを俺たちは知っていた。
二人でゆっくり歩き始める。
窓の外は真っ暗だった。
あなたも黙ったまま外を見ている。
でも顔色はあんまり良くない。
なんか考え込んでる顔。
俺は頷くだけにした。
無理に励ますのも違う気がしたから。
あなたはそういう時、誰かに聞いてもらうだけで少し楽になるタイプだ。
そう言うと。
あなたは小さく頷いた。
その時だった。
後ろから声がし、振り返ると廉がいた。
カルテを持ちながらこっちへ歩いてくる。
廉が呆れた顔をする。
あなたが少ししょんぼりする。
廉はその顔を見ると苦笑した。
その瞬間ちょっと安心した顔になる。
分かりやすいなぁと思った。
あなたが俯く。
廉もそれ以上聞かない。
俺たちはあなたのこういう時を何度も見てきた。
無理に聞くより待った方がいい。
あなたが俺を見る。
こうして三人でナースステーションへ戻った。
あなたは椅子に座る。
俺は記録。
廉はカルテ確認。
でも時々話しかける。
廉が笑う。
あなたも少し笑った。
さっきより顔色がいい。
やっぱり一人でいるのが不安だったんだろうな。
しばらくして。
ふとあなたを見ると眠そうに目をこすっている。
こくりと頷く。
さっきまで眠れないって言ってたのに。
俺は思わず笑った。
病室へ戻る。
ベッドに横になったあなたは、もうかなり眠そうだった。
毛布をかけ直してやる。
返事もだんだん小さくなる。
もう半分寝てる。
俺と廉は顔を見合わせて笑った。
病室を出る直前。
振り返る。
あなたはもう眠っていた。
さっきまで不安そうな顔をしていたのが嘘みたいに。
俺は少し安心しながら、静かに病室のドアを閉めた。
















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!