あなたの採血は、毎回ちょっとした戦いになる。
でも今日は特に長引いていた。
俺は採血室の椅子の前にしゃがみ込む。
即答。
もう何回目だろう。
全部やだだった。
思わず苦笑する。
でも無理もない。
あなたは昔から採血が苦手だ。
苦手というか、恐怖に近い。
小さい頃から何度も採血してきたはずなのに、慣れるどころか毎回本気で怖がる。
今も椅子の上で小さくなりながら腕を抱えている。
俺は頭を撫でる。
でも今日は検査がある。
採血しないわけにはいかなかった。
声が少し震えている。
あれ。
と思った。
顔色も悪く、呼吸も少し速い。
まずいかもしれない。
名前を呼ぶが返事がない。
ただ俯いたまま肩が上下していた。
採血室の入り口から紫耀が顔を出した。
俺が苦笑すると、紫耀は状況を見てすぐ表情を変えた。
あなたはゆっくり顔を上げる。
目には涙が溜まっていて呼吸も明らかに速い。
俺と紫耀は同時に察した。
過呼吸になりかけてる。
椅子の横へ移動する。
だけど呼吸はどんどん速くなる。
涙がぽろぽろ落ちる。
小さな声だった。
俺は背中をゆっくり撫でた。
紫耀も反対側にしゃがむ。
あなたは必死に顔を上げる。
でもうまく呼吸ができない。
胸が苦しいのか、小さく肩を震わせていた。
俺は手を握った。
冷たい。
びっくりするくらい冷たい。
少しでも楽になるように声をかける。
でも焦っている時って、それが難しいんだよね。
俺は何度も背中を撫でた。
紫耀も優しく声をかけ続ける。
何度も何度も。
あなたが安心できる言葉を探しながら。
そう言うと、あなたの涙がさらに溢れた。
たぶん怖かったことを我慢してたんだと思う。
あなたが小さく頷く。
少しずつ。
本当に少しずつ。
呼吸が落ち着いてきた。
あなたはまだ涙目だったけど、さっきよりずっと落ち着いていた。
俺はほっと息を吐く。
過呼吸になると本人もすごく苦しい。だからできるだけ安心させてあげたかった。
聞いてみる。
無理させたくなかった。
でも。あなたは少し考えてから首を振った。
紫耀と顔を見合わせる。
頑張るらしい。
あなたが少し笑った。
確かに。
俺もつられて笑ってしまった。
その言葉に少し安心する。
神宮寺が採血の準備を始める。
その声を聞いているうちに。
あなたが目を丸くする。
腕を見ると、絆創膏が貼られていた。
あなたはぽかんとした。
紫耀が吹き出す。
あなたは少し照れながら俯く。
採血は嫌い。
たぶん次も泣く。
でも、じんくんと紫耀先生がいてくれるなら、少しだけ頑張れる気がした。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!