第5話

採血
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2026/06/21 12:56 更新
 あなたの採血は、毎回ちょっとした戦いになる。

 でも今日は特に長引いていた。
神宮寺
神宮寺
あなたー

 俺は採血室の椅子の前にしゃがみ込む。
神宮寺
神宮寺
そろそろやろっか
(なまえ)
あなた
やだ

 即答。

 もう何回目だろう。
神宮寺
神宮寺
まだ針見せてないよ?
(なまえ)
あなた
やだ
神宮寺
神宮寺
消毒もしてないよ?
(なまえ)
あなた
やだ
神宮寺
神宮寺
腕も出してないじゃん
(なまえ)
あなた
やだ

 全部やだだった。

 思わず苦笑する。

 でも無理もない。

 あなたは昔から採血が苦手だ。

 苦手というか、恐怖に近い。

 小さい頃から何度も採血してきたはずなのに、慣れるどころか毎回本気で怖がる。

 今も椅子の上で小さくなりながら腕を抱えている。
神宮寺
神宮寺
怖い?
(なまえ)
あなた
うん……
神宮寺
神宮寺
そっか
(なまえ)
あなた
かえりたい
神宮寺
神宮寺
帰りたいよね

 俺は頭を撫でる。

 でも今日は検査がある。

 採血しないわけにはいかなかった。
神宮寺
神宮寺
終わったら帰れるよ?
(なまえ)
あなた
やだ…
神宮寺
神宮寺
すぐ終わる
(なまえ)
あなた
やだ…

 声が少し震えている。

 あれ。

 と思った。

 顔色も悪く、呼吸も少し速い。

 まずいかもしれない。
神宮寺
神宮寺
あなた?

 名前を呼ぶが返事がない。

 ただ俯いたまま肩が上下していた。
神宮寺
神宮寺
大丈夫?
平野
平野
じん?

 採血室の入り口から紫耀が顔を出した。
平野
平野
まだだめそう?
神宮寺
神宮寺
ごめん説得中

 俺が苦笑すると、紫耀は状況を見てすぐ表情を変えた。
平野
平野
あなた
(なまえ)
あなた
んん…っ
平野
平野
顔上げて

 あなたはゆっくり顔を上げる。

 目には涙が溜まっていて呼吸も明らかに速い。

 俺と紫耀は同時に察した。

 過呼吸になりかけてる。
神宮寺
神宮寺
あなた、大丈夫だから

 椅子の横へ移動する。
神宮寺
神宮寺
採血まだしないよ
(なまえ)
あなた
…っ
神宮寺
神宮寺
今はしないから

 だけど呼吸はどんどん速くなる。
(なまえ)
あなた
はっ…はっ…

涙がぽろぽろ落ちる。
(なまえ)
あなた
こわいっ…

小さな声だった。
神宮寺
神宮寺
うん
神宮寺
神宮寺
怖いよね

 俺は背中をゆっくり撫でた。

 紫耀も反対側にしゃがむ。
平野
平野
あなた
(なまえ)
あなた
っ…
平野
平野
俺の顔見て

 あなたは必死に顔を上げる。

 でもうまく呼吸ができない。

 胸が苦しいのか、小さく肩を震わせていた。
(なまえ)
あなた
はっ…はっ…
神宮寺
神宮寺
大丈夫

 俺は手を握った。

 冷たい。

 びっくりするくらい冷たい。
神宮寺
神宮寺
あなた。息吸わなくていい

 少しでも楽になるように声をかける。
平野
平野
吐こう
神宮寺
神宮寺
ふーって

 でも焦っている時って、それが難しいんだよね。
(なまえ)
あなた
できなっ…
平野
平野
大丈夫できるよ
(なまえ)
あなた
できない…っ
神宮寺
神宮寺
ふーってしてみようね

 俺は何度も背中を撫でた。

 紫耀も優しく声をかけ続ける。
平野
平野
大丈夫だからね
神宮寺
神宮寺
採血しないよ
平野
平野
落ち着くまで待つからね
平野
平野
急がないから

 何度も何度も。

 あなたが安心できる言葉を探しながら。
神宮寺
神宮寺
怖かったね

 そう言うと、あなたの涙がさらに溢れた。

 たぶん怖かったことを我慢してたんだと思う。
(なまえ)
あなた
ごめなさ…いっ、
神宮寺
神宮寺
謝らなくていいよ
平野
平野
ごめんなさいはなし
神宮寺
神宮寺
怖いの我慢してたんでしょ

あなたが小さく頷く。
神宮寺
神宮寺
我慢しなくていいよ

 少しずつ。

 本当に少しずつ。

 呼吸が落ち着いてきた。
神宮寺
神宮寺
そうそう
平野
平野
上手だよ。ちゃんと呼吸出来てるよ

 あなたはまだ涙目だったけど、さっきよりずっと落ち着いていた。

 俺はほっと息を吐く。

 過呼吸になると本人もすごく苦しい。だからできるだけ安心させてあげたかった。
神宮寺
神宮寺
あなた
(なまえ)
あなた
…うん
神宮寺
神宮寺
今日はやめる?

 聞いてみる。

 無理させたくなかった。

 でも。あなたは少し考えてから首を振った。
(なまえ)
あなた
やる…
神宮寺
神宮寺
ほんと?
(なまえ)
あなた
うん

 紫耀と顔を見合わせる。

 頑張るらしい。
神宮寺
神宮寺
じゃあ約束
神宮寺
神宮寺
怖くなったらすぐ言う
(なまえ)
あなた
うん
神宮寺
神宮寺
我慢しない
(なまえ)
あなた
うん
神宮寺
神宮寺
泣いてもいい

 あなたが少し笑った。
(なまえ)
あなた
それはもう泣いてる

確かに。

 俺もつられて笑ってしまった。
平野
平野
終わるまで俺もいるね
(なまえ)
あなた
ほんと?
平野
平野
ほんと

 その言葉に少し安心する。

 神宮寺が採血の準備を始める。
平野
平野
あなた
平野
平野
針見ないでこっちの方見とこっか
(なまえ)
あなた
うん
平野
平野
大丈夫だからね

 その声を聞いているうちに。
神宮寺
神宮寺
はい終わり
(なまえ)
あなた
…え?

 あなたが目を丸くする。

 腕を見ると、絆創膏が貼られていた。
(なまえ)
あなた
おわった?
(なまえ)
あなた
うそだ
神宮寺
神宮寺
ほんと
(なまえ)
あなた
もう?
神宮寺
神宮寺
もう

 あなたはぽかんとした。

 紫耀が吹き出す。
平野
平野
その顔どうしたの
(なまえ)
あなた
だって…
神宮寺
神宮寺
頑張ったね
平野
平野
えらかったよ

 あなたは少し照れながら俯く。

 採血は嫌い。

 たぶん次も泣く。

 でも、じんくんと紫耀先生がいてくれるなら、少しだけ頑張れる気がした。

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