第12話

君に届け
64
2020/09/11 13:48
何ヵ月が経っただろう。

美玲は姿を見せないまま、葉が色づき始める季節になった。

少し爽やかな空気が土曜日の朝を迎える。


その日のモーニングコールは地獄を予告するものだった。


うるさいくらいの着信音が鳴る。

隣の人に迷惑になるから早く取らなきゃ。そう思ってたけど

手が滑ってテーブルから落下した。

シリコンのカバーでよかった。傷はないみたいだ。

「もしもし、透、朝早くごめんね」

紗弥加だ。何があったのだろう。声が冬の氷のように冷たい。

「あのね、」



美玲がビルの屋上から飛び降りた



一瞬、何を言われたのか理解が出来なかった。

ビルはあの七夕祭りが行われるはずだった百貨店の屋上らしい。

僕はコートを持って急いで出た。

突然の事でビルの周りは早朝にも関わらず野次馬が沢山いた。

警察が焦りながら連携をとり、立ち入り禁止のテープを貼っていく。

必死に美玲の名前を呼んだ。

今なら「透」って返してくれるような気がしたから。


でも、僕の声は届かなかったみたいだ。


完璧に隠されていないブルーシートの奥から、緋色に染まった足が見えた。

少しだけだったけど、絶対そうだ。

手芸が得意だった美玲が作ったミサンガだ。     

付き合って一年が経つ頃、なんかおそろつけよ~と言いながら僕にもくれたもの。

僕は青と黄色。美玲はピンクと黄緑。

可愛い色合いが大好きだった。

「いつか切れるのかな?」とワクワクしていた。


その幸せがグラスから零れそうで。

僕はそれに呼応するように、その場に泣き崩れてしまった。










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