懐かしい商店街。
美玲とよく歩いた。
お肉屋から香るコロッケの匂い、八百屋の元気な声。
全ての想い出がゆっくり蘇る。
静かな商店街だったけど、いっつも同じ曲が掛かってた。
「自分で選んだ道があるから 間違えても良いんだよ」
誰が唄ってたかは覚えてない。でも今はやけに心に刺さる。
通学路だったから歌詞だって覚えた。
それはいつのまにか、美玲の口癖になってた。
「自分で選んだ道なんだから、間違えたって良いじゃん!死ぬわけでもあるまいっ!」
本当に明るかったなぁ…
正直、ここの道を通るのが怖くて最近は避けていた。
でも、美玲と交わした約束があるから。守らなくちゃいけないから。
「透は笑顔が可愛いんだから、ずっと笑っててよね」
僕はマスクの下で笑った。
家に帰って荒れてしまった片付けをすることにした。
独り暮らしだから元々汚かったけど、その荒れっぷりと言ったら残酷なもの。
割れた花瓶、中のサクラソウはカピカピに乾いている。
二人で撮った写真が入ったフォトフレームもパリッとヒビが入ってしまっている。
何、これ。
一緒に砂浜で撮った写真。テスト明けに電車で茅ヶ崎海岸まで遠出。
僕は笑っているのに、彼女の顔だけ原型をとどめていないぐらい、薄かった。
普通は見えない後ろの風車まで見えてしまう。
なんで、なんで__________
僕の前から幸せが、光が消えそうで。
気がつけば夕日が薄暗い雲に隠れてしまっていた。
何時間泣いたのだろう。
鏡に写った自分は自分じゃないみたいに怖かった。
光を失った目、赤く腫れぼったい瞳。ボサボサな髪。
全部、全部信じたくなかった。
何もかもが幻であってほしかった。
僕に降りかかる雨はやむ気配が無かった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。