どうやって病院まで行ったんだろう。
ああやってぼうっとして立っていたとき、後ろ遠くの方から紗弥加の声が聞こえて、そのまま_____
医者からはもう無理だということを伝えられて。
なんで世の中はこんなにも残酷なんだろう。
彼女は昔、呟いた。
「私の短冊、見たでしょ?あれ、本当はもう一個あるんだ~」
と、宝探しのように楽しそうに。
まだ、彼女の夢を見つけられてないのに。
短冊はタイムループする前の部屋に置きっぱなしだし、
あの「星」の詩集だって、図書室に置きっぱなし。
たしか、あそこの本には何かのカードも挟まってた気がするんだけどなぁ…
そのまま、遺体安置室へ連れていかれた。
そこには、原形をとどめられていない、真っ赤な美玲が静かに、美しく横たわっていた。
もう、見たくなかった。でも、自分から逃げることだけはしたくなかった。
だから、側に寄った。
「美玲、お疲れ様」
そう言葉をかけ、僕は部屋を出た。
もう、美玲の前で情けない姿を見せたくない。
病院の待合室で座っていたとき、医者から話しかけられた。
「あの、こんなときに、申し訳ないのですが、彼女はきっと自殺ではない__________と。」
自殺じゃない?じゃあ、誰が。
僕は悲しみを越えた怒りを感じた。
「あの足の曲がり方と背中の跡がどうも自殺ではないかと」
自殺じゃないなら、なんなんだよ。
誰が美玲を奪ったんだよ。誰が…
強く握られた手はズボンに跡をつけてしまうぐらいだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!