第11話

あの日のギター
92
2020/09/11 09:24
その日から美玲は学校に来なくなった。

ラインだって未読もしくは既読スルー。

本当は先生にでも相談するべきなんだろうけど、

どうせ相手にもしてくれない。

うちの担任は面倒臭いことを極端にいやがる。
 
呼び出ししたくない理由だって定時に帰りたいからだし。

僕には頼れる人がいなかった。

昔からずっとそうだった。

誰にも相談できずに抱え込んで辛くなって。

このどうしようもない気持ちをどこにやることもなく毎日を過ごす。


隣に温もりがなくなってしまった通学路を一人で歩く。

どこからか、ギターの音色が聞こえてくる。

楽器屋の音が漏れているんだろうけど、聞こえるメロディーは鳥肌が立つぐらい美しかった。

その歌は彼女が大好きな「ハルノヒ」だった。

明るい音色と優しい歌詞が大好きらしい。

彼女のレパートリーは商店街に掛かっていた曲とこの曲。

文化祭で美玲が弾いていた曲。

あと二ヶ月なのに。今回も聞けると思ったんだけどなぁ。





ある日の放課後だった。

僕の記憶が狂う前の楽しい日常を送っていたとき。

迫る文化祭の前、一緒に教室で練習していた。

"北千住駅のプラットホーム"から始まる歌詞。

窓から差し込む夕日、揺れるカーテン。

僕は青春を感じ、ひそかに嬉しく笑っていた。

「なに笑ってんの笑」

もしかして私の歌に惚れてしまいました?と冗談めかして彼女は言った。

確かに美玲の歌声は透き通っていてとても綺麗だった。


もっと、聞いていたかった。


あの日のギターの音色を聞くことはできないんだろうか。

文化祭の日、沢山の拍手に包まれ涙を流す美しい美玲を見れないんだろうか。

急に空虚感が襲い、その場に座り込んでしまった。

うまく笑えない。


今はただ、彼女を助けたい_______


そう思ったとき、ギターの音がプツリと切れた。

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