第10話

傍観者の権利
83
2020/09/10 22:23
そこからの日と言ったら、何も変わらない日常だった。

毎日挨拶を交わし、授業を受け、購買でメロンパンとチョココロネを買って食べる。

そして帰って美玲とその日の活動報告的なラインをする。

これが4年前の日常.

ただただ幸せだった。それだけで生きる希望が生まれた。

でも、今回だけは違っていた。

教室へ入ったとき、異様な空気が僕を包んだ。

辺りを見回してみると、一瞬で理解した。

「花岡美玲がいない」

昨日もラインしたのに?元気な声を聞いたのに?

僕はどうしたらいいのか、分からなかった。


"また彼女を失ってしまうのか"


そんな不安が襲った。

もたつきながらも、シリコンのカバーが付いたスマホを出す。

「美玲、今どこにいる?」

返信はすぐたった。

「あー、今日学校休んでる」


深い理由はない。

ただ学校を休みたいだけ。と帰ってきた。


でも、その理由を知るのは早かった。

そろそろ近づく文化祭の準備で、

劇の脚本を任された僕は放課後急いで書いていた。

僕の周りはみんな女子で早く帰りたいなぁと思っていた頃。

「花岡美玲…だっけ?」

そんな声が聞こえてきた。

ひそひそと話す女子の声を頑張って汲み取ろうとしている僕は恐ろしく気持ち悪い。

でも、気になって仕方がなかった。

「あの子でしょ、最近事件起こしてるの。」

「そうそう、ネットでも話題よね」

「だから今日も"学校休んでるんでしょ"」

ちょっと待ってと一人の女子が止めた。

「あそこの男の子、花岡さんと仲良いじゃん、ヤバくない?」

僕は聞こえていないふりをするのが精一杯だった。

真実が分からない僕は、傍観者でいることしかできない。

家に帰って、Twitterで学校の名前と事件と打ってみた。

あの女子があげたのかは不明だが


落書きして近所の猫殺したりしてるのはこの子だよ

と書かれた文と共に、制服姿の美玲の写真があった。

これ、美玲の家の前。

これなら身バレするのも時間の問題だろう。


俺はどうしたら良いのか分からなかった。

プリ小説オーディオドラマ