第14話

やり直す方法
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2020/09/13 08:08
夕焼けが空一杯に広がる。  

このまま飲み込まれてしまいそうな感じだ。

それならいっそ、僕ごと飲み込んでしまえばいいのに。

ふわふわと浮かぶ雲は、どんどん形を変化していった。

まるで、僕の心みたいに。 
 

昔から僕は自分が何だか分からなかった。

将来の夢も、やるべきことも、大切にしなきゃいけない人も。

特技なんてなかったから、中学の時は勉強するしかなかった。

もし勉強をやめたら、自分には生きている価値なんて無いんじゃないか、そう思ったから。

運動、勉強、絵画、音楽、勉強。

どれもこれも中途半端で抜きん出でいるものなんてなかった。

だから、一生懸命頑張ることしか残されていなかったのかもしれない。

友達と遊ぶこともなく、サボることもなく。

テスト前は死ぬ気で勉強していた気がする。

でも、美玲は違っていた。

「確かに勉強は大切だよ?

 でもさ、人生って一回きりじゃん?楽しまなきゃ損でしょ」

そう言った。

そう言われたとき、じゃあ僕の努力はなんなんだと怒りが沸いてきたが、

事実だったから、何も返せなかった。

ちょっと自分から逃げていいかな、そう思った。

そこからは必要最低限の勉強量にした。

未だ自分の価値は見つからない。

でも、それよりも大事にしなきゃいけないことはあるんじゃないか。

そう思う事が増えた。


夕焼けが包む町中を歩く。

カップルが手を繋ぎ、愛の時間を刻んでいく。 

僕たちが手を繋いだの、最後にいつだったかな__________


僕は、美玲を、彼女を大切に出来なかったのかもしれない。

その日は大雨が降った。

ザーザーという雨音が天井に直撃して鳴り響く。

僕はまた、やり直す方法を考えた。

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