第4話

#3
174
2020/11/06 03:48
バスから麗那ちゃんが見えた。

でも、私の知っている麗那ちゃんではない。

あんなに自信がなさげで、誰とも一緒にいない麗那ちゃんを私は知らない。
羽音
見間違え…?
そう思いながらも確認するために、バスが駅に着いてから私は先ほど通った道につながる改札口へと向かった。

そこで待つこと二分。

先ほども見た、私服姿の麗那ちゃんがいた。
羽音
麗那ちゃん!
そう話しかけると、下を俯いていた麗那ちゃんは肩がピクリと震わせたが、顔を上げてくれた。

目は変わらないが、顔が学校とは別人な麗那ちゃんが、言った。
麗那
どうした、の…羽音ちゃん?
震えた声で言ってきた麗那ちゃんに私は普段通りを装う。
羽音
たまたまバスの中から見えたから、一緒に帰ろ?
普段通りの私に安心してくれたのか、麗那ちゃんはいつも通りの顔をして頷いてくれた。

ただ、私たちを見ている視線が二つある事は気づかないふりをしておく。



***


羽音
…習い事の帰りなん?
同じ方面の電車に乗った。

たまたま二人分の席が空いていて、そこに座ってから、聞いてみると、頷いた。

でも、その顔は黒いリュックで隠されていた。
羽音
あそこって、確か、有名な事務所が運営しているスタジオだったよな…?
この間、噂で聞いたことを尋ねると、彼女はリュックから顔を上げた。
麗那
そうなんだ。あそこは、ダンスユニットが所属している事務所の育成スタジオなんだよね。
麗那
私は選抜コースになんとか入られていて、今は毎日通っているんだ
羽音
…将来は、ダンスとかを目標にしているの?
そう尋ねると、麗那ちゃんは頷く。
麗那
私は、将来、ダンスと歌と演技で勝負する人になりたくてね。小さい頃から頑張っていたんだけど、ね。
突然クスッと笑った麗那ちゃんに首を傾げながら話を聞く。
麗那
実はね、私の従姉にその事務所に所属している人がいるから、親の七光りならぬ従姉の七光りなんじゃないかって言われて、スタジオで、はぶられているんだよね。
そういった麗那ちゃんは最初は笑顔を保っていたが、段々目に水が溜まり、最終的には泣いてしまった。

そんな麗那ちゃんの背中をさすりながら私は考えていた。

普通じゃない麗那ちゃん。だからこその悩みなのだろう。
羽音
……お疲れ。そんな状況でも挫けずに先に進んでいる麗那ちゃんは凄いね。
そう言うと、麗那ちゃんは、電車内だが、しゃくりをあげて泣き始めてしまった。








電車に乗り始め10分。次が麗那ちゃんの最寄りの駅となった。
羽音
麗那ちゃん、これからも頑張ってね。私、応援する。
麗那
ありがと!
そう返事をしながら麗那ちゃんは電車から軽い足取りで降りていった。
羽音
…大変だな、有名人の親戚って
…さてさて、先ほどからずっと見られる二つの視線の元へでも行こうか。

まだ、15分はこの電車に乗ってるからな。

隣のドアの所に立っていた二人組の元へと私は近づき、話しかけた。
羽音
あの、すみません。
ダンス教室の仲間
……はい?
片方の女子が私に返事をしてくれた。

まあ、選抜コースだから、ある程度の礼儀はなっているようだな。
羽音
初めまして。天野川あまのがわ麗那の学校の級友である真栄田まえだ羽音と申します。
ダンス教室の仲間
え?
もう片方の女子がそう聞いてきた。

…よく見たら二人とも顔が整っている。

まあ、麗那ちゃんほどではないが。
羽音
…なんですか、その相手はきっと勘違いしていますよ。
先ほどの反応からきっとあの人と間違えられてるのだろう。

その誤解を解くために私はその一言を二人に言った。
羽音
とりあえず、麗那ちゃんは、努力家です。貴方たちみたいに嫉妬で人をはぶくような人ではなく、学校ではいろんな人と話しています。そんな麗那ちゃんに貴方たち二人は勝てないと思います。顔が良くても性格ブスって最低ですよ。
私は早口で言った。

その早口さに驚いたのか、二人は顔がポカーンとしたままになっている。


私は先ほどまで麗那ちゃんと二人で座っていた席に一人で戻っていった。

ボーっと座っていると二人組はどこかで降りたようだ。

そして、私は最寄りへと着き、少し重い足取りで家へと戻り始めた。







羽音
ただいまー。
父さん
おう、おかえり。
羽音
あれ、今日はもう店じまいをするの?
家に着くと、お父さんが閉店作業をしていた。
父さん
ああ。ちょいっと俺も疲れたしな。
珍しく父さんが本物の笑顔ではなく、愛想笑いでそう言った。
羽音
そうなんだ…
そして私は無言で閉店作業の手伝いをし始めた。
父さん
…そういや、志望大学はどこかあるのか?
作業を淡々と進めていると突然父さんが言った。
羽音
…なんで?
父さん
いや、聞いとくだけだ。
羽音
まず、国公立かな。んで、T大以外。
父さん
…それはそうだろ。
…これは、仕方がない話だ。

私と父は理解している話。
父さん
…そして行きたい学部とかあるか?
父さんはまたそう私に聞いてきた。
羽音
……特に行きたい学部とかがあるわけではないんだ。お父さんの店の跡も継ぎたい、でもお父さんにもっと楽したいからいい企業に行きたい。それしか考えが無いからもう少しだけ考えさせて。
父さん
そんなこと、羽音が考えなくていいのに。
私が言ったことにお父さんはボソッとそう呟いた。
羽音
私は、普通に生きるんだ。
そう父さんに言った。








父さん
相変わらずそれしか考えてないのか…一時期の俺だな。
そう、お父さんが言ったのには気づけなかった。

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