バスから麗那ちゃんが見えた。
でも、私の知っている麗那ちゃんではない。
あんなに自信がなさげで、誰とも一緒にいない麗那ちゃんを私は知らない。
そう思いながらも確認するために、バスが駅に着いてから私は先ほど通った道につながる改札口へと向かった。
そこで待つこと二分。
先ほども見た、私服姿の麗那ちゃんがいた。
そう話しかけると、下を俯いていた麗那ちゃんは肩がピクリと震わせたが、顔を上げてくれた。
目は変わらないが、顔が学校とは別人な麗那ちゃんが、言った。
震えた声で言ってきた麗那ちゃんに私は普段通りを装う。
普段通りの私に安心してくれたのか、麗那ちゃんはいつも通りの顔をして頷いてくれた。
ただ、私たちを見ている視線が二つある事は気づかないふりをしておく。
***
同じ方面の電車に乗った。
たまたま二人分の席が空いていて、そこに座ってから、聞いてみると、頷いた。
でも、その顔は黒いリュックで隠されていた。
この間、噂で聞いたことを尋ねると、彼女はリュックから顔を上げた。
そう尋ねると、麗那ちゃんは頷く。
突然クスッと笑った麗那ちゃんに首を傾げながら話を聞く。
そういった麗那ちゃんは最初は笑顔を保っていたが、段々目に水が溜まり、最終的には泣いてしまった。
そんな麗那ちゃんの背中をさすりながら私は考えていた。
普通じゃない麗那ちゃん。だからこその悩みなのだろう。
そう言うと、麗那ちゃんは、電車内だが、しゃくりをあげて泣き始めてしまった。
電車に乗り始め10分。次が麗那ちゃんの最寄りの駅となった。
そう返事をしながら麗那ちゃんは電車から軽い足取りで降りていった。
…さてさて、先ほどからずっと見られる二つの視線の元へでも行こうか。
まだ、15分はこの電車に乗ってるからな。
隣のドアの所に立っていた二人組の元へと私は近づき、話しかけた。
片方の女子が私に返事をしてくれた。
まあ、選抜コースだから、ある程度の礼儀はなっているようだな。
もう片方の女子がそう聞いてきた。
…よく見たら二人とも顔が整っている。
まあ、麗那ちゃんほどではないが。
先ほどの反応からきっとあの人と間違えられてるのだろう。
その誤解を解くために私はその一言を二人に言った。
私は早口で言った。
その早口さに驚いたのか、二人は顔がポカーンとしたままになっている。
私は先ほどまで麗那ちゃんと二人で座っていた席に一人で戻っていった。
ボーっと座っていると二人組はどこかで降りたようだ。
そして、私は最寄りへと着き、少し重い足取りで家へと戻り始めた。
家に着くと、お父さんが閉店作業をしていた。
珍しく父さんが本物の笑顔ではなく、愛想笑いでそう言った。
そして私は無言で閉店作業の手伝いをし始めた。
作業を淡々と進めていると突然父さんが言った。
…これは、仕方がない話だ。
私と父は理解している話。
父さんはまたそう私に聞いてきた。
私が言ったことにお父さんはボソッとそう呟いた。
そう父さんに言った。
そう、お父さんが言ったのには気づけなかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。