第8話

#7
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2020/12/24 15:01
羽音
最悪…
…なんであそこで今回沖縄に行きたくないと思っていた一番の原因の人に会うんだろう。
羽音
暢歌さんが、なんで。
そう呟きながら私は過去を思い出す。





「うるさい!___の姉を持ってる癖に私に口を叩くな!」

暢歌のんかさんの声。


「___の家系を産んだ和武と、羽音は出来損ないだな。」


風香ふうかさんの声。



二人の女性の冷たい声。


「二人とも黙りな。二人ともさ、そうやってむかーしから人を傷つけるの得意だよね。でも、それ自分がやられた時のこと、考えな?絶対二人とも絶対嫌って言うでしょ。やめな。」

救世主の恵夢めぐむさん。


そんな恵夢さんがいなくなったのは精神的に辛い。







羽音
…誹謗中傷、かぁ。
私は水族館の前のオブジェクトの前でそう呟いた。

今は、父さんの車待ち。
羽音
…でも、暢歌さんと風香さんも父さんと同じ血筋なのだから、結局は…___の血筋に含まれることに気付いていなかったな。
自分で、__のことをそういうのは苦しかったが、周りに合わせてまたそう呟いた。

…なんで、人は、力を持つ物に流されていくのだろう。

完璧な証拠があっても、隠す。

そんなバカみたいなことは、私はしたくないが、「普通」だから。

普通、だから……





だから、__を私は守る。



羽音
あ、父さん。帰ろ。暢歌さんとその娘さんに会った。
父さん
あー、だから早めに連絡が来たんだな。ま、乗って乗って。今日はこのまま俺の行きたいところに行こう。
連絡してすぐにやってきてくれた父さんの事情を話しながら車に乗る。

そして、私が乗ったとほぼ同時に車が動き始めた。

きっと、父さんも一緒に苦しんだから、私の気持ちが分かるのだろう…。
羽音
で、どこに向かっているの…?
父さん
秘密。だって言ったら羽音はスマホで調べちゃうでしょ?
羽音
確かにそうだけど…。
父さん
だから、秘密。着いてからのお楽しみ。
羽音
…つまんないよ。
父さん
それでいい。絶対、いい反応を出させるから。
羽音
…ケチだね。
そう言いながらどんどん車でばあちゃんちと反対方面に行く父さん。

いったいどこへ向かっているのだろうなどと思いながら私は車の中から沖縄にまた似合わない少し曇っている空を見つめていた。




父さん
はい、着いた。
水族館からほぼ一時間の場所に来た。
羽音
…どこ、ここ。
父さん
んー?真栄田岬まえだみさき
羽音
真栄田って苗字…。
父さん
まあーな。
そう言いながら少し進むと、そこにはきれいな群青色の海と夕焼けの綺麗な空の景色があった。
羽音
キレイ…。
その一言で尽きる。
父さん
ほら、言っただろ?沖縄で久しぶりに行きたいところって思った時にここを思い出したんだ。ここ、昔はよく、バスとか使ってよく来てたんだよなぁ。
羽音
…そっかぁ。
父さん
特に兄さんとかとよくここにきて、将来一緒にシュノーケリングしようねとか言ってたんだよ。
羽音
父さんと恵夢さんとの夢、叶った…?
父さん
まあ、叶ったよ、20代前半の夏休みに。まー、シュノーケリングでもめっちゃきれいなところだから、な。
羽音
そっか。
あんな楽しそうな父さんな顔を見るのは久しぶりだ。

いつも、笑ってても、何かを考えているような顔していた父さんがこんな無邪気な顔をするなんて。

まあ、____と__と恵夢さんのことがあったらそうなっちゃうか。


そんなことを思いながら景色に思い出を浸らせていた。





羽音
…まーじか。
夕焼けをじっくり見ていると、いつの間にか夜空になっていた。

綺麗な星々。

それを見続けてもよかったが、祖母さんの家に戻らないといけないということで、車で戻っていた。

そして、家に戻ると、先ほども見かけた葉月さんと暢歌さんがいた。

…私は現実逃避するために、スマホだけ持ってまた外へ出た。

そして、通話アプリを開くと、「NAYU」と書かれた連絡先を押す。

ツー、ツー、ツー…

この、無機質な音さえ嫌になる。

そして、その音が消えてから私はスマホに向かって話しかける。
羽音
あ、もしもし?
那由
『あー、羽音?どうした?』
羽音
いーや、なんか部活に行ってないし、勉強もしてなかったからつまんなくて電話した。
那由
『えー、羽音が珍しいなぁ。』
羽音
知らないよ。
那由
『えー、何を求めてるの…?』
那由はくすくすと笑いながら話す。
羽音
…癒し。
那由
『えー、だって、羽音自体が癒しじゃん。えー…あ、じゃあ、天野川さんの写真でも見て癒されたら?』
羽音
いや、なんで今麗那ちゃんの名前が出てきた?それに麗那ちゃんは、可愛いなどの癒しより美しいの方だから癒されないよ。
那由
『……そっかぁ。』
那由はちょっと寂しそうに言った。
羽音
…やっぱ、那由と話すことが癒しだ。
那由
『え、羽音、どうした?』
羽音
……詳しくは言わないけど…嫌なことがあった。
那由
『そっかぁ。じゃあ、私が羽音を笑顔にさせないとね!』
羽音
…ありがと。
こういう察してくれたり、優しく接してくれる那由に惚れるんだよ。憧れるんだよ。
那由
『………いーえ。』
…こういう性格だから、那由は、きっと悩みをため込んでいるんだろうね。いつか、私が救うから。仮面を、壊してやる。


羽音
あー、やっぱ、面白いわ…w
那由
『でしょ!顧問がそう言った時皆吹き出してたんよ。』
羽音
…ふふっ。
やっぱりすごいね、那由。すぐに私を笑わしてくれて、幸せになった。
那由
『あ、そろそろ夕飯だからまた。次は…明後日の学校だね。羽音からの土産話、待ってるからな!じゃあ!』
そう言われ一方的に切られた電話。きっと最後の言葉は那由の照れ隠しなのかな。じゃなかったとしても、嬉しい言葉だった。

「今の私は、もっと、前を向かないと。」

そう呟きながら私は家の中へと戻る。

落ち着いて考えれば、今からイヤホンで音楽を聴きながら夕飯を親戚と食べれば、何も聞こえないで済むんだよ。

そうだよ。

そう思い、賑やかな音がする部屋の前で急いでスマホで動画サイトの音楽のプレイリストを再生し始める。

そして、親戚がたくさんいる部屋の扉を開ける。

全員の視線はこっちにやってきた。

それはそうだろう。

父さんより、確実に親戚から逃げ出していた私がここに「普通」にいるんだから。

でも、「普通」の私にとっては、それをしなければいけない。

そして、父さんと祖母さんの間の空席に無理矢理座った。

そこからは目の前にある料理を食べるか、スマホを触るかしかしていなかった。

その料理の味は、ほぼしなかった。

いや…おいしくなかった。

ただひたすら、目の前の世界を気にしないことにばかり気を取られていたら、いつの間にか自分の持ち分の食べ物は食べ終えていたようだ。



そして、本当の最後の食べ物のケーキとフォークとスマホを持って、私は家の縁側に来た。

いつもの本土と比べてこの時期では暖かい。

少し生温い風と雰囲気に浸りながら私は音楽の再生を止めた。

好きな人の曲をずーっと聞いていたから、気持ちは普段よりずいぶんと上向きだった。

羽音
…味は、普通かな。
ケーキは普通のショートケーキだった。

ただ、チョコケーキ派の私にとっては、ショートケーキじゃない方が良かったなどと言った愚痴を思いながらも流英りゅうえいさんのツイートを見てみる。
羽音
…さすが、流英さん。ハモリが、綺麗だな…。
そんなことを呟きながら今度は空を見る。
羽音
…………月が綺麗。
そう呟いてたまたま手に持っているタロットの束から一枚を引く。

タロットは元々趣味程度に覚えているため、その手札が何を表しているかは大体自分で分かる。

羽音
これは、月か…でも、位置は簡易的なものだから気にしないとして…



タロット占いの17番の月。



正位置は…





「トラウマ・フラッシュバック」







「嫌な暗示だね。」





でも、逆位置は






「漠然とした未来への希望」






「…逆位置を願いたいな。」
月に向かって私はそう呟いた。




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作者(惟華)
作者(惟華)
色々と今回説明する必要ありそうですね!
作者(惟華)
作者(惟華)
まず、流英とは、カクヨムで投稿している「さよならは嫌いだ」に出てくるボカロPです!
作者(惟華)
作者(惟華)
詳しい説明はカクヨムで読んでください!
作者(惟華)
作者(惟華)
次、タロットですね!すみません、これ、完全に私作者の趣味嗜好です。
作者(惟華)
作者(惟華)
正位置とか、逆位置などの理解ができない場合は気軽にコメント欄で聞いてください!

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