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第4話

四部 空の青さを忘れた君へ
1,283
2020/11/21 16:10


 消毒の臭いで満たされた部屋で、僕の意識は∞回目の夢から覚めた。虚空を描く甲高い耳なりの音と、僕の心音だけが響く、なにもない部屋。背中には知らない固いベッドの感触があり、手には何か温かい感触がある……。

 冷たかった背中が少しの温もりを感じる。何か、細い腕かなにかに抱かれている感覚。暫く、その感覚を感じながらなにも考えずにボーっとしていると、一筋のか細い声が聞こえた。

「おはよう、koutan」

~※~*〞„~◈~„〝*∼※∼

 病院の固いベッドの上で、寝たきりの生活。点滴から栄養を貰い、睡眠や考えに更けることしかやることがない。それが、今の僕の生活であった。四ヶ月前、僕は事故に遭った。意識不明の重体ですぐに死んでしまってもおかしくない、そんな危機的状況にまで陥った。

 しかし、不幸にも僕は今も呼吸をしてしまっている。それに、視力をすべて失うなんていうおまけまでついてきた。本当に笑えちゃうよね。最初は目が見えなければ、いつも楽しみにしているKUNさんの参加型にも行けないし、大好きなimo64君にも会えないって絶望したなぁ……。

 今が何時だか分からない、今がどれだけ明るいか分からない、たまにお見舞いに来てくれる数少ない友人がどんな表情をしているかも分からない。生きている意味も……わからなかった。

 けど、悪いことばっかりじゃなかったんだよ? imo64君が、僕に会いに来てくれるようになったんだんだ。僕が起きてから寝る時間のほとんどを一緒に過ごしてくれる。僕はよく、

「君は自分の生活をしなくていいの?」

と君に尋ねる。けど君は、

「馬鹿、koutanがこんなに苦しそうにしているのに親友の僕だけがいい生活なんて遅れるわけないだろう?」

 っていつもいってくれたよね。本当に、君がいてくれるだけで夜の闇を意識せずにすんだしとっても感謝している。ネットが作った、偽りの関係から始まって、本当の友人を手に入れられたことは奇跡としか言いようがない。

 だけど、そんな幸せが長く続くことはなかった。いつの日か、本当にいつのまにかだよ? imo64君が居なくなっちゃったんだ。昨日まで一緒にいたのに、もう隣にはいない。連絡をとろうと思っても、目が見えないからスマホが触れない。

 嫌われたのかな、僕と一緒にいるのが嫌になっちゃったのかな? Twitterではさんざん馬鹿にしていた、メンヘラと同じような考えが思考を巡る。生きている意味を、また失っちゃった。

 けど、imo64君がいなくいなってから数日後、僕の退院の日程が決まったんだ。お医者さんに視力は徐々に回復するだろうし、一年後くらいには普通の生活に戻っているかもしれない、といわれた。

 もちろん嬉しかったよ? けど、僕の中には彼に会えなくなったというなんとも言えない喪失感が心を占拠していたから、正直もうなにも考えたくなくなっていたと思う。

 そして、今日は退院の日。ようやく大嫌いな病院からおさらばできる喜ばしい日。家族も、友人も、みんな喜んでいる。僕も、嬉しい……はずなのに。どうしてこんなに苦しいのだろう。

「退院おめでとうございます」

 お世話になった先生から、そう言われた。今までありがとうございました、と一言いって白杖をつきながら家族のところに戻ろうとすると……

「そういえば、あなたがよく私に話をしてくれた青年のこと、覚えていますか?」

 と尋ねられた。間違いない、imo64君のことだ。僕は頷いて先生の言葉を待った。

「その事は、大変残念でしたね……私も精一杯手を尽くしましたが……」

「ちょちょとっと待ってください‼ 残念だったってどういうことですか? imo64君は……彼は、僕のお見舞いに来てくれているって言っていたんですが……」

 嫌な汗が一筋背中に流れる。聞きたくない聞きたくない聞きたくない……知ってはいけないことを知ろうとしている事は十分に理解していた。けど……

「知らなかったのですか? 彼の体はもうすでに病魔に犯されていて長くなかったのに……貴方にどうやら心配をかけたくなかったようですよ」

 考えれば合点がいった。本来ならいては行けない時間に僕の病室にいた、imo64君。二人の相部屋なのに、誰も来なかったこと。よくよく考えれば、分かりきっていたことじゃないか……

「ははは……ありがとうございます、それが知れて納得できました先生」

「……imo64さんは死ぬ直前まであなたのことを心配していましたよ。もし、辛くなったら親御さんに渡してあった紙のところに行きなさい。きっと、力になってくれますよ」

 言葉は、返すことができなかった。大好きな彼は、もういない。その日は、愛想笑いでごまかして何とか家に帰った。いつも通りの、自分のベッドにすぐに横たわった。このあとお母さんが美味しいものを作ってくれるっていっていた。

 けど、そんなの食べられるわけがなかった……機能しない目をつむる……すると、見えないはずの目に驚くべき光景が映ったのだ。

 柔らかい風が吹き抜ける草原に、彼の……‘最愛の君’の姿が見えた……。

「koutan聞こえるかい?

「勝手に死んでしまってごめん

「本当はもっと生きたかったんだけど……ダメだった

「だけどkoutanお前は違う

「世界線βのお前は、俺を残して死んでしまった

「だけど、世界線αの……今のお前は生きているんだ

「これから先、僕の声は‘君には聞こえないけれど’

「‘どんな君でも’俺は君のことが大好きだから

「いつか来る‘再会の時’まで、ずっと待っているから

「お土産話、宜しくな

「最期に、今までたくさんの幸せをくれてありがとう‼

「大好きだったよ、バイバイ……

 ハッと、飛び起きる。そこは、いつも通りの僕の部屋だった。

「そっか……imo64君……君は」

 ──僕のことを心配してくれていたんだね。僕がこんなにメソメソしていたら、あの世にも行けないと思うから……何とか気持ちに踏ん切りをつけて、生きてあげるよ。

 だから、待っていて。いつかそっちにいくその日まで、待ち続けていて。向こうにいったら、一番に会いに行ってあげるから。

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