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第47話

Confession(懺悔)
「時間潰しか…」
昨夜の彼等との会話を思い出すように、ふ…と言葉が洩れた。カチリ―――、 「よし。私は私!」自分に言い聞かせると玄関ドアをロックした。管理人に朝の挨拶に見送られ、いつものように歩き慣れた舗道を歩く。澄み渡る青空に昨夜の月を追いかけるように太陽が私に眩しく照らしていた。実際のところどうなのだろうか…。月が太陽を追いかけているのだろうか、それともやはり太陽が麗しき月を追いかけているのかもしれない。それじゃ私は何を追いかけようとしているのだろうか、何故か『聖なる予言(ジェームズ・レッドフィールド角川書店1994)』を久し振りに読み返そうかと思わせるような昨夜の彼等の出逢いに何かを感じていたのかもしれない。
行き交う人々を見やりながら、本人は何等感じることない日常生活にありながらも運命という糸に手繰り寄せられているに違いないと感じ始めている私がいることに気づき始めているようにさえ感じる。
時間潰し……。人はそんなに簡単に生きることができるのであろうか。
朝の見慣れた光景でさえ何故だろう、いつもと違う感情を奮わせている気がしてならない。
出逢い。運命を感じているかもしれない。陽射しが語りかけている気がした。
「おはよーございます。松崎検事」
現実に取り戻されるように今流行りのクロスバイクを停めた片瀬が挨拶を交わしてきた。それは犯罪者とごく一般市民の生活環境に於ける心理を考えていた時だった。
「おはよー片瀬君」
「何だか元気そうですね」
「そうかな、ウフフフ」
彼は私と肩を並べて歩くようにクロスバイクを押し歩き出した。道行き交う人々は行着く先しか見えていないように足早に歩いている。
「片瀬君はこの仕事を通じて何か感じることがある?」
「どうしたんですか、朝から」
彼は何だか不思議そうに私を見やり、言葉を続けた。
「そうですね松崎検事。何て言えばいいかな…。強いて言えば人間関係の複雑さでしょうか」
以外な片瀬の言葉に私は彼を見つめ返し「例えば?」と答を求めていた。
「例えばですよ。窃盗事件を挙げれば、事件そのものの行為が悪いのは判りますよ。でも、何故その行為に至ったかなんですよね」
「成る程。それで?」
「はい。僕が感じるのは共犯関係の場合、供述の食い違いがありますよね。本当はどちらが正しいのだろうか?それに警察の調書って出来すぎているようにさえ感じる時があるんですね」
成る程、随分観察しているんだなぁ――― と受け止められた。確かに片瀬が言うことに一理があると思う。同じ取り調べ室に於いて共犯者が調べを受けているのではないから普通は食い違いがあって当然と言えるだろう。
「それと…」
「いいわよ、言ってくれても」
「傷害事件なんですけど、今の僕にしてもこの先絶対ないとは言い切れないですよね。確かに学生の頃は喧嘩をしたこともありますよ。でも、余程のことがない限り警察に届けることがなかったけど、大人になると何故大事にするんでしょうかね」
片瀬は1度言葉を句切り対向者を交わす為に歩みを停め、再び私と肩を並べ歩くことに努めていた。
何故犯罪が起こるのだろうか?同じ人間として私には未知数の学習とも言える。
そもそも犯罪心理学は「行動主義」「人間性心理学」「精神力動論(精神分析学派を含む)」「自我心理学」「発達心理学」等の立場から解析、そして研究を進められているの。
しかしいずれの学派も犯罪行動が個人の状況認知とその行動によって獲得が期待される事とに依存する事、言い換えると犯罪行動が日常生活のなかで学習された行動様式と状況の認識とが絡み合って起こると定義付けられているの。
しかし何故、犯罪が起きるのかといえば単に人間と法律が存在するから。
犯罪者は本能の赴くまま行動を起こすからで、悪い事だと判っていても怒りや欲望が勝ってしまい理性を見失うと考えられている。
通常、殺したいと考えても普通の人は理性でその行為を自重します。また金銭を得るのも地道に労働をするよりも楽な方へ本能の赴くまま流れて行くから窃盗、詐欺等、営利目的の犯罪が起きるの。
本能より理性が勝れば通常犯罪は起きません。
犯罪者とそうでない人の違いはどちらが勝っているか、ただその一点だけ(厳密にはいろいろややこしい説明もあります)。
そして犯罪からの立ち直りに関しては日常生活における社会化、事に人間関係を通じての家族、学校、地域社会への愛着や献身、或いは道徳や法を尊重する信念の形成の為のスキルの学習を問題とするべきであると考えられている。
同時に主体性確立や自己実現の欲求と自己統制、状況認知と罪の意識や思考様式との関係など人間の内面性にも視点を向け学習させるべきだと私は思っている。
単に禁固刑を受けた犯罪者は禁固に対して苦痛を感じ、そうならない為に再度の犯罪を自重しているに過ぎないという見解で(全員とは言いませんが多くはそうであると考えられるわね。またプロファイリングでは再犯の場合の前提はこうなります)
また、前述した学習を施されていないが為に再犯で逮捕される者が多いの。
日本の(というか世界中のほとんど)禁固刑のシステムでは犯罪者への抑止力とはなっても更正には結びついていないと考えるのが自然かもしれない。
●犯罪心理学(はんざいしんりがく、英語:criminal psychology)は、犯罪事象を生ぜしめる犯罪者の特性や環境要因の解明を通して、犯罪予防や犯罪捜査、また犯罪者の更生に寄与することを目的とした心理学の一分野。応用心理学のひとつに分類される。
犯罪心理学の研究領域は、犯罪精神医学、犯罪社会学、刑事政策などと重なる部分も多い。また、犯罪学(犯罪生物学)の一部門と捉えることもできる。
犯罪心理学という用語は、マスメディアなどでは犯罪精神医学と混同されて、区別なく用いられることが多い。
~犯罪心理学参照~

「それと…いつだったかな?」
片瀬の犯罪意識に私は大学で学んだ犯罪心理学を思い起こしていた。片瀬は話を続けた。
「確か何処かの暴力団員が債権取立てにより、開き直った債務者の言葉にキレて暴力を振るった傷害事件、あれ確か罰金でしたよね」
「そうだったわね。それがどうかした訳?片瀬君」
「暴力と言っても1発ぶん殴っただけでしょ。確かに暴力はいけないし決して暴力団員を庇っているんじゃないですよ。只松崎検事、あの事件は本当に彼だけが悪いのですかね。あの事件は彼が暴力団員というだけで事件になりましたよね。何だか複雑なんですよね…」
そうかもしれない。確かに片瀬が言うように法云々よりも犯罪者の矛先に矛盾性を醸し出しているかもしれない。言い換えれば人権上の軽率さが犯罪に追いたて並びに作り上げているかもしれない。
「松崎検事、あの…何か気に障りましたか…」
彼は歩を停め私に嘆きそうに言葉を放った。
「えっ?ううん、確かに片瀬君の言う通りかもしれないわね。しかし片瀬君、私達には何て言うのかな、そう、客観的視線をもたらすことが許されないということは判って貰えるわよね」
片瀬はそれに対しては何も答えなかった。
「おはようございます」
歩を進めてきた私達に守衛官からの挨拶を受け返し、私は検察庁舎に足を踏み入れた。
日本国Am9:00。
「東西説着讓我懺悔。当然因為汚染了自己的手(ドン シ シュオ ジャ ラン ウオ チャン ホイ。ダン ラン イン ウェイ ウ- ラン ラ ズ- ジ- ダ ショウ奴は懺悔をさせてくれと言っています。当然自らの手を汚したのですから)」
「ククク。報告好。游戲只是重新開始了(バオ ガオ ハオ。ヨウ シ- ジ- シ- チョン シン カイ シ- ラ。報告はいい。ゲームが再開しただけだ)」
謀略と殺戮。そこに映りゆくものは人間が最も喜びを感じるものかもしれない。
汝は人を愛せますか。
その言葉をそっくりそのまま返してやるさ。
汝はさ迷える堕天使か。
神が仕掛けた罠に貶められただけではないか!!
「ククク。そう、中々のゲームを与えてくれたことに悦びをだ。ククク、さあ今から俺の時間を邪魔しないでくれ」

Am9:30。交通事犯(I警察管内、轢き逃げ起訴)。
Am10:00。刑事事犯(S警察、覚醒剤取締り違反・使用起訴)。
Am10:47。続け様の調べを終え、一息ついたところである。
轢き逃げなどせずとも何故事故届けを出さなかったのだろうか。人の生命を軽薄視したが故の自己本意の典型かもしれない。
覚醒剤を使用した主婦。浮気がもたらした家庭崩壊の結末と言えるかもしれない。
取り調べ中に取り乱れては覚醒剤の快楽がもたらした犠牲をどこまで反しているのか窺えないが、恐らく執行猶予が下るだろう。動機は夫に内緒でデリヘル勤務を続け、客に勧められたという。彼女の軽率さが招いたものであるが、実際の被害者は彼女の夫と幼い子供であるかもしれない。
依存性が見受けられないが、22歳という年齢が再犯を予測できても、こればかりは私達にはどうすることも出来ない。
「検事はん、何でもかんでもヤクザ悪いと言いまっけどな、ワシ等シャブみたいな物、触ってまへんで。まして上が煩いでんのや。売ってるのは不良外国人でんがな。それでもヒネ(警察)はワシ等を悪く言いよる。ホンマ、敵わんわ(堪ったものでない)」
傷害事件で私が取り調べたヤクザの弁である。確かに一人間としての彼の言い分は判らんでもないが、私はヤクザという人間を好きになれない。
ヤクザ、ヤクザ――、松山―――、「はっ…!?」として私は、まるで大切な物を思い出すかのように内線電話の呼び出し音に気づくや受話器に手を伸ばした。
「はい、△◎室の松崎です」
「おはようございます。いつもご苦労様です。どうですか時間は」
「はい、今から伺わせて頂きます」
主席検事の申し出により私は、そろそろ赴く矢先に電話が鳴ったのである。
「片瀬君、今から主席の所に行くから、電話が入れば用件を控えておいて」
そう言い伝えると、私はデスクから離れた。一体何の用件であるのだろう…。私としては決して取り調べに於ける不祥事を仕出かした思いに至らないのではあるが…。只何となく胸が騒いでいるのは確かであることを拒めなかった。
「松崎検事、何かあったのですか」
「ううん、恐らく新たな事件の申し送りかもしれない」
そう告げると静かに私はドアを閉めた。