「時間潰しか…」
昨夜の彼等との会話を思い出すように、ふ…と言葉が洩れた。カチリ―――、 「よし。私は私!」自分に言い聞かせると玄関ドアをロックした。管理人に朝の挨拶に見送られ、いつものように歩き慣れた舗道を歩く。澄み渡る青空に昨夜の月を追いかけるように太陽が私に眩しく照らしていた。実際のところどうなのだろうか…。月が太陽を追いかけているのだろうか、それともやはり太陽が麗しき月を追いかけているのかもしれない。それじゃ私は何を追いかけようとしているのだろうか、何故か『聖なる予言(ジェームズ・レッドフィールド角川書店1994)』を久し振りに読み返そうかと思わせるような昨夜の彼等の出逢いに何かを感じていたのかもしれない。
行き交う人々を見やりながら、本人は何等感じることない日常生活にありながらも運命という糸に手繰り寄せられているに違いないと感じ始めている私がいることに気づき始めているようにさえ感じる。
時間潰し……。人はそんなに簡単に生きることができるのであろうか。
朝の見慣れた光景でさえ何故だろう、いつもと違う感情を奮わせている気がしてならない。
出逢い。運命を感じているかもしれない。陽射しが語りかけている気がした。
「おはよーございます。松崎検事」
現実に取り戻されるように今流行りのクロスバイクを停めた片瀬が挨拶を交わしてきた。それは犯罪者とごく一般市民の生活環境に於ける心理を考えていた時だった。
「おはよー片瀬君」
「何だか元気そうですね」
「そうかな、ウフフフ」
彼は私と肩を並べて歩くようにクロスバイクを押し歩き出した。道行き交う人々は行着く先しか見えていないように足早に歩いている。
「片瀬君はこの仕事を通じて何か感じることがある?」
「どうしたんですか、朝から」
彼は何だか不思議そうに私を見やり、言葉を続けた。
「そうですね松崎検事。何て言えばいいかな…。強いて言えば人間関係の複雑さでしょうか」
以外な片瀬の言葉に私は彼を見つめ返し「例えば?」と答を求めていた。
「例えばですよ。窃盗事件を挙げれば、事件そのものの行為が悪いのは判りますよ。でも、何故その行為に至ったかなんですよね」
「成る程。それで?」
「はい。僕が感じるのは共犯関係の場合、供述の食い違いがありますよね。本当はどちらが正しいのだろうか?それに警察の調書って出来すぎているようにさえ感じる時があるんですね」
成る程、随分観察しているんだなぁ――― と受け止められた。確かに片瀬が言うことに一理があると思う。同じ取り調べ室に於いて共犯者が調べを受けているのではないから普通は食い違いがあって当然と言えるだろう。
「それと…」
「いいわよ、言ってくれても」
「傷害事件なんですけど、今の僕にしてもこの先絶対ないとは言い切れないですよね。確かに学生の頃は喧嘩をしたこともありますよ。でも、余程のことがない限り警察に届けることがなかったけど、大人になると何故大事にするんでしょうかね」
片瀬は1度言葉を句切り対向者を交わす為に歩みを停め、再び私と肩を並べ歩くことに努めていた。
何故犯罪が起こるのだろうか?同じ人間として私には未知数の学習とも言える。
そもそも犯罪心理学は「行動主義」「人間性心理学」「精神力動論(精神分析学派を含む)」「自我心理学」「発達心理学」等の立場から解析、そして研究を進められているの。
しかしいずれの学派も犯罪行動が個人の状況認知とその行動によって獲得が期待される事とに依存する事、言い換えると犯罪行動が日常生活のなかで学習された行動様式と状況の認識とが絡み合って起こると定義付けられているの。
しかし何故、犯罪が起きるのかといえば単に人間と法律が存在するから。
犯罪者は本能の赴くまま行動を起こすからで、悪い事だと判っていても怒りや欲望が勝ってしまい理性を見失うと考えられている。
通常、殺したいと考えても普通の人は理性でその行為を自重します。また金銭を得るのも地道に労働をするよりも楽な方へ本能の赴くまま流れて行くから窃盗、詐欺等、営利目的の犯罪が起きるの。
本能より理性が勝れば通常犯罪は起きません。
犯罪者とそうでない人の違いはどちらが勝っているか、ただその一点だけ(厳密にはいろいろややこしい説明もあります)。
そして犯罪からの立ち直りに関しては日常生活における社会化、事に人間関係を通じての家族、学校、地域社会への愛着や献身、或いは道徳や法を尊重する信念の形成の為のスキルの学習を問題とするべきであると考えられている。
同時に主体性確立や自己実現の欲求と自己統制、状況認知と罪の意識や思考様式との関係など人間の内面性にも視点を向け学習させるべきだと私は思っている。
単に禁固刑を受けた犯罪者は禁固に対して苦痛を感じ、そうならない為に再度の犯罪を自重しているに過ぎないという見解で(全員とは言いませんが多くはそうであると考えられるわね。またプロファイリングでは再犯の場合の前提はこうなります)
また、前述した学習を施されていないが為に再犯で逮捕される者が多いの。
日本の(というか世界中のほとんど)禁固刑のシステムでは犯罪者への抑止力とはなっても更正には結びついていないと考えるのが自然かもしれない。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。