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第24話

Vol.3
「まあ松崎検事、最後まで聞いて下さい。それに貴女とお逢いするのがこれで最後になる気がするんですよ。時間はまだ大丈夫でしょうかな」
「ええ…」
一体何があると言うのよ。そして、それがこの私に何の関わりがあると言うの……。知りたい?知りたくない?交差する感情が入り乱れる。『貴女はどっちなの?』もうひとりの私に問い掛けた時に私は心の奥底で呻いてしまった。『ああんん…』ドロリと愛液が溢れてしまった。股間を締め付けようとするが、私の抵抗は虚しく、もうひとりの私は嬉々と奴を受け入れてしまった。今私は白昼夢に魘されているかもしれない。
「最近に於いては失踪中の、これも戸籍上の母親が奴の服役中に亡くなっています。噂では輸血未遂なのですが、あくまで噂ですがね。只1つ問題は輸血法に伴うカルテの20年間の保存期間が施されていない。私の推測ですがね、何故奴をこうまでブラック視するかなんですよ。言い換えれば、奴は何処にでもいるヤクザと変わらんというのが私の見解なんですがね」
そう言い終えると平野刑事はニタリと笑った。その笑いの含みはまるで私を探っているようにさえ感じてならない。
「失礼」
そういうと胸ポケットからホープなる銘柄のタバコを取り出した。田庵、確か禁煙ではなかった筈では。そんな怪訝な私の顔を読み取ったのか
「ああ、これですか。事件捜査の情報収集ということで特別に許可を戴いたのですよ」
そう言うと灰皿を膝元から取り寄せタバコをに火を点けた。ホープ…。喫煙者に希望をもたらそうとしているのだろうか、それともこの日本に対する嫌味なのか…、希望。本当は何に希望を求めればいうのだろうか、何故かしら頭が混乱しかけているようにさえ感じる。ああ、早くまさぐりたい。嫌な思いを紛らすために、私をエクスタシーに導きたい。それが今私が求めるホープであるかも…。
正直な気持ちとして、果たして私は検事として如何なる希望を持ち合わせているのだろうか…。
煙草を灰皿にもみ消し、再び平野刑事は言葉を続けた。
「あの事件は正直言って際どかった。憶えているでしょ松崎検事」
「えっ?ああ偽装結婚の事件ですよね、確か」
「そうです。私情を申せば、あの事件に奴が絡んでおらず、他の者であったのならば…、松崎検事、恐らく私は河村に『お前がかぶっていけ』と言っていたかもしれない。幾ら刑事と言っても私にも情があります。しかし、奴の名前があがった時、上からどうしても奴を追い込めとの指示が出たんですよ。故に姑息な手を使いましたがね。松崎検事の計らいにより有罪。その甲斐があって奴の刑期が延びるは、上はボーナスだと喜ぶは、ハハハ」
「ボーナス…」
聞き返そうとする私を手で遮り言葉を続けた。
「いいえ松崎検事。気にすることはないです。私からも礼を言っておきます」
そう言うと平野刑事は頭を深々と下げたのだが
「いいえ平野刑事、勘違いしないで下さい。あくまでも私は検事としての職務をしたまでのことですから」
そうよ、ボーナスか何だか判らないが、私は検事として恥じることのない職務を遂行したまでのことの想いを告げた。要するに、わさわざ警察側から礼を言われる筋合いはないのである。そんなつまらない話なら帰りたい。もう一人の私が促す。その度に私のショーツが濡れ増すのを感じる。ジュルジュル―――。
「もう1度言っておきますが、平野刑事、私は検事として正義を以て公判に挑み裁判官に是非を委ねたに過ぎません。仮にあの事件が松山以外の者であったとしても、私の検事としての職務を遂行したまでのことと自負しています。そうでしょ平野刑事。犯罪に人間差別は決してあってはいけないのです。それとも貴殿方は松山慎吾に対して何等かの事情を抱えているとでも言いたい訳ですか」
一体何なの。たかがチンピラヤクザではないか。いや、奴は只のチンピラヤクザでないのかも…。虫の報せというのだろうか…、これ以上奴に係わらない方がいいのではないだろうか?不安が私にのし掛かろうとしている。ジュルジュル―――『嘘を言うのではない。貴女は松山慎吾を求めているのよ。フフフ』違う!!私は自分に強く否定した。ジュルジュル。辞めて!!むずる自身の蜜壺が歯痒くて仕方がない。
女…。自分が如何にもふしだらな女であるかを知らされるようで頬が紅潮するのを感じとれた。

「ははは、奴のことになると松崎検事、貴女は頑なになりますな。いや失礼しました。実はですな松崎検事、私が以前提出した資料を憶えられますかな」
私は平野刑事の言葉の裏側を探り出すかのように目蓋を閉じた。10秒…20秒… 腕時計の秒針が頭の中で刻んでいるかのように、その時の資料を手繰り寄せ、記憶の中で開示しようと努める。何処と無く虫酸が走る。そう平野刑事に。老練な刑事はこれ程に人の心を覗こうとするのかしら。これじゃ私が何等かの犯罪者のようではないか。ご愁傷さま。貴方が島流しになることに何の関係があるのかしら、この検事の私に。人は職業環境汚染にて性質が変わる。特に学歴コンプレックスを持ち合わせている程に性質破壊がともわれ―――、何かの心理学本に載っていたような…。完全なその類いの性質を浴びているのでは?目蓋を閉じた私の心の片隅で侮辱的な平野刑事に言葉を投げ捨てた。その最中に1枚の用紙がヒラヒラと舞い浮かぶ。そるはまるで蝶が休息場所を求めているかのように。何という花だろうか?紅い花弁が震えている。閉じた羽根を寛ぐかのように緩やかに広げゆく。けど、それは蝶でなく蛾に変わり果てていた。何なの、この蛾は…見覚えがあるような…。そして花弁が崩れかけようとした時、言葉が過った。
「ククク。還有,見做ロ巴(ハイ ヨウ,ジエン ズオ バまた、御逢いしましょう)」
私の身体が硬直仕掛けた。松山慎吾… そう言えば私は奴のことは何も知らないのではないか。只魅入られたような目は、違う。この平野刑事の卑しげな目ではない。彼は人の暗部を卑しく覗こうとしているのではない。どう言えばいいのだろうか…。そうだわ、運命!!そう運命を凌駕しながら自分を憐れみ人を憐れみながら、何と言えばいいのだろうか…、救いを求めている?いや違う。言葉が巧く表せない。
「思い出してくれましたかな」
私は緩やかに目蓋を開いた。一瞬松山慎吾が目前に居ることん望むように。だが卑しく笑っているのは松山慎吾ではなかった。
「松崎検事。お気づきのことだと察しますが、私自身が引っ掛かるところなんですよ。自分でも判っていますよ。このような商売をし出してから人間が卑しくなったことを。松崎検事も私達をそのように捉えていますかな」
返す言葉がなかった。いや完全に見透かれていることに言葉が出なかったのだ。検事風情の小娘が!我々を甘く見るのじゃない。平野刑事の目に宿るのは明らかに劣等感から這い上がってきた老練の卑猥さが私を見下していた。
所詮あんた等は、私達警察組織があってこその検察であることを忘れて欲しくないですな―――。その言葉を吐かずとも、私には否応なしに受け止めることができた。
「私達警察は、果たして何を以て正義なのか最近考えさせられますよ。そんな思いの中で私は上と奴、つまり上層部と松山の溝が何であるのか興味を抱いた訳です。ところで松崎検事、奴のことで何か変わったことがなかったですかな」
「いいえ、今のところは…」
嘘をついた。奴が関わっているのかどうか判らないが、確かに悪戯にしては度を越しているようにさえ思う受信されたFAX。溜め息が出そうなのを堪えながら平野刑事の次の言葉を待った。