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第91話

Vol.4
N県。 
「村田、この際だが奴に仕掛けるか」
「奴とは先輩、西岡をですか?」
「アホか、お前は。あのアホのお陰でなんぼ(幾ら)のカネが出ていると思っているのや」
そうなんだ。牛見公園での出来事には、ホンマにビビってしまった。それにあのガキ、中々洒落たことをしてくれるものやないか。しかし、まさか盗聴どころか撮影までしていやがるとは…。只、気掛かりなのは、吉岡や。アイツはどうも気が許せん。
「処で中岡先輩、仕掛けるとはまさか東條ですか」
「ホンマはあの女を犯すぐらいなら簡単なことなんやが、仮にも同僚や」
「それじゃ矢張り松山をですか」
当たり前やないか。銀流会なんど最初っから目をつけている訳やない。
「村田、平野の息子も確か警官の筈やったな。それにしても平野は何処に隠れてしまったのやろ」
「先輩、自分もそのことが気になっていたのですが、まさか…」
「まさかとは、どういうことや」
「いや…、その……」
判ってる。ある情報を隠滅する為に消されたという噂は。しかしや、それならこの俺も…。いや、まさかな。それに俺は本部長の傷を握っているのや。今本部長にバンドエイド役は俺しか居ない訳やないか。
「いいか村田、平野の息子に吹き込むんや」
「吹き込むとは…」
「いいか村田、平野は生きているのか死んでいるのか判らん。仮に死んでいたとすればや、誰の手にかかったかやないか」
「それってまさか…松山が?」
「そういう事にすれば、平野の息子はどのような動きをすると、お前はどう思う?」
「恐らく逆上するやも」
「そうやろな。ここまで言えば、お前でも判るんやないか」
仕掛けたる。そして必ず塀の中にぶち込んでやる。いや、それよりも本部長の意向が気になるが…
人間は堕ちる時はホンマにとことん堕ちるもんやな。
松山、覚悟しておくんや!!その後は東條やな。たっぷり可愛がったろやないか!!。
それにしても、自分はこのまま中岡先輩の指示通りに動けばいいのだろうか…。
「村田巡査の携帯ですかね」
「そうですが…どちらの方ですか」
「いいか、アンタ所の東條さんの件なんだが、余計なチョッカイをかけたら殺すぞ!」
「おい!誰なんだ、お前は?切りやがった」
それも公衆電話からだった。もしかすれば自分はとんでもないことに巻き込まれているのでは…。
それにしても…
「おい村田、判っているな!俺も、お前の未来も何に掛かっているのか、村田、忘れるんやないで」
中岡先輩に念押しされた時、既に遅しであるかもしれないが、司法警察の正義は崩壊しつつあることを感じた。
「聞いとるんか?」
「判っています。平野をけしかけてみます」
「それでええ」
供述調書なんてものは、書名押印させれば、幾らでも捏造できることまで教え込まれてきた。当時は各供述調書に押印はなかった。そして取調べ時の容疑者への暴力に、権力の優越感が染み込んでしまっていた。
それにしても、何故松山なのか…。今日の情報では、あのコルベットはまだ動いておらず、松山自身も居宅から出てきていないとのことだった。
それに銀流会の西岡にベッタリの女は何だろうか…。
その頃、県警本部長室に電話が掛かっていた。
「わざわざご連絡を下さるとは、御前恐れ入ります」
それは構わんが、処で君、彼は何処まで気づいているのかね。
「失礼でありますが…ゲームのことですか…」
バカかね君は?そんなことは今更のことではない。所謂君ところの内部だよ。それと…
「仰ることは理解しています。只奴はあることで覚醒したのは間違いありません。しかし御前、国家権力は何よりも勝るものです」
いいかね君、我々が危惧しているのは、彼は新たな繋がりが出来たという噂だよ。只言えることは、いいかね君、全ての発端は君達であることを忘れないでくれたまえ。
「御意」
通話が途切れた時、私は大きく溜め息を吐いた。本来なら奴を我々側に取り入れるべきであったのかもしれない。1つのミスが歪みとなり、大きな傷を被うかもしれない。
だが奴は…。
中岡が1つの案件を提示してきたとは言え、平野は事実何処に消えたのであるかなのだ。恐らくこの世に存在しないと思うが、
「おい、私だ」
受話器を取り上げて言葉を発した。
「いいか、ハッキングには要注意だ」
只それだけを伝えて受話器を戻した。それにしても、あの小娘がまさか…。私の息子の結婚相手の選択をミスったのかもしれない。あのバカ供の事件をどれ程揉み消してきたかもしれない。そのことまでキャッチしているとは…。それにしても、この時期に橋岡大阪市長の広域連合案は不味いな。知事には決して参加をしない旨を伝えてはいるが。
あの日、そうなのだ昭和6●年に、あの御方を交えての食事会に偶然奴に情報が洩れていたとは。
それにしても、あの山に足を向けていたとは…。何と勘の鋭い奴なんだ。「チッ!」
やはり中岡の案件を実行するべきか、それとも…
くそっ!ヤクザを利用したのがミスったのかもしれないな。しかし、潰すことに於いては、我々には国家としての大義名分がある訳だ。
「痛…」
爪を切っていた時、思わず深切りをしてしまった。赤い血が滲む。私は滲むその血を疑視しながら思わず身震いをしてしまった。
奴は何故ヤクザの道を選んだのだろうか。やはり気づいていたのかもしれないな。
血を啜った。錆びた味気に私は、躊躇いを感じてならなかった。