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第48話

Vol.2
「失礼します」
5階の主席検事室のドアを2度ノックし、「どうぞ」と静かに応じた加島誠之(のぶゆき)主席検事室のドアを開いた。
私達が使用しているスチール机ではなく、重々しい木机が配置され、部屋そのものに威厳が備わっている。白い髭を蓄えた温厚そうな顔に笑みを浮かべているが、眼鏡のレンズ越しに覗く目には、常に洞察を宿しているように見受けられる。
「やあ、松崎君。君に報せねばならない物がありましてね。しかし、君の方にも何やら申し出があるように見受けられますね」
流石に主席検事の老練さである。私は目礼をし言葉を切り出した。
「私から申し出を切り出しても宜しいでしょうか」
「構いません。何でしょうか」
「主席検事、実はどうしても気になることがありまして、捜査権の許可を願いたいのですが」

捜査権―――。
刑事事件の捜査
検察官は,あらゆる犯罪について捜査する権限があります。捜査とは,捜査機関において,犯罪があると思料するときに,公訴の提起及び遂行のため,犯人及び証拠を発見,収集,保全する手続です。任意に被疑者・参考人等の取調べを行ったり,提出を受けた証拠物を領置するほか,被疑者を逮捕・勾留したり,証拠物を捜索し差し押さえるなどの強制手段を駆使して,犯人及び証拠の発見・収集等を進めていきます。
 多くの事件では,警察官等の司法警察職員が第一次的捜査機関として捜査に当たっています。しかし,検察官も送致された事件の真相を把握して適正な処理をするために,司法警察職員の捜査を指揮・指導したり,自ら被疑者や参考人を取り調べるなど証拠の収集を積極的に行っています。また,検察官は,国税査察官,証券取引等監視委員会,公正取引委員会等の機関から脱税事件,証券取引法違反事件,独占禁止法違反事件等の告発を受けて捜査をしたり,贈収賄等の事件に関して,検察官だけで独自に捜査を行うこともあります。
捜査が開始されると,被疑者を取り調べ,証拠を収集,保全することなどによって,犯罪の嫌疑の有無及び内容が,逐次,客観的に裏付けられていきます。犯罪事実及び犯人が特定されて,起訴,不起訴等の事件処理に熟する程度の心証が得られる段階に達すると,捜査は一応終結します。被疑事件について必要な捜査を遂げた後に,検察官は,公訴を提起すべきかどうかを判断して,起訴又は不起訴等の処分をします。
我が国においては,検察審査会の起訴議決に基づいて公訴が提起される制度や裁判上の準起訴手続を例外として,公訴権は検察官のみに付与されており,不告不理の原則の下,国家刑罰権を発動するか否かは検察官の適切な判断に委ねられています。
このように,我が国においては,検察官が捜査権限を十分に行使し,事案の真相を解明して,起訴すべき事案を的確に起訴することにより,適正な刑事司法が実現されているのであり,検察官の責任は極めて重いものとなっています。 
では検察と警察とは対等であるのか?建前では対等であるが実質的には、検察の権限は警察の権限より圧倒的に強いと言わざるを得ないの。
以下、刑事訴訟法の規定に則して、両者の関係を簡単に説明しておくわ。

警察捜査が終了して、事件が検察官に送致されると、検察捜査が行われ、検察官が起訴相当と認定して公訴を提起すると、公判が開始されます。これが刑事訴訟法の予定するモデルである訳。
そこで、まず、司法警察職員の原則的な捜査義務が規定され(189条2項)、次に、検察官の捜査権限が明らかにされているの(191条1項)。
即ち、司法警察職員は、第一次的捜査機関であるのに対して、検察官は第二次的・補充的捜査機関であり、両者は、対等・協力の関係にあるとされています(192条)。ここまでが建前
(1)一般的指示権(193条1項)・・たとえば微罪処分の処理に関する指示
(2)一般的指揮権(193条2項)・・たとえば「選挙違反の検挙に努めよ」という指揮
(3)具体的指揮権(193条3項)・・たとえば「○○さん誘拐殺人事件」に関する具体的指揮

司法警察職員には、検察官の指示・指揮に従う義務があり(193条4項)、司法警察職員が正当な理由がなく検察官の指示・指揮に従わない場合には、検事正以上の検察官には、懲戒・罷免権限を有する者に対して、懲戒又は罷免の訴追をすること権利があり(194条1項)、懲戒・罷免権限を有する者には、訴追が理由のあるものと認めるときは、訴追を受けた者を懲戒又は罷免する義務があるとされています(194条2項)。

このように見てくると、冒頭で述べたように、検察と警察とは両者対等であるという建前にもかかわらず、現実には圧倒的に検察が優位にあることが明らかになります。

(関連する刑事訴訟法の条文)
●第189条 
引用省略
司法警察職員は、犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査するものとする。
 
●第191条 
検察官は、必要と認めるときは、自ら犯罪を捜査することができる。
引用省略
 
●第192条 
検察官と都道府県公安委員会及び司法警察職員とは、捜査に関し、互に協力しなければならない。
●第193条 
検察官は、その管轄区域により、司法警察職員に対し、その捜査に関し、必要な一般的指示をすることができる。この場合における指示は、捜査を適正にし、その他公訴の遂行を全うするために必要な事項に関する一般的な準則を定めることによって行うものとする。
検察官は、その管轄区域により、司法警察職員に対し、捜査の協力を求めるため必要な一般的指揮をすることができる。
検察官は、自ら犯罪を捜査する場合において必要があるときは、司法警察職員を指揮して捜査の補助をさせることができる。
前3項の場合において、司法警察職員は、検察官の指示又は指揮に従わなければならない。
●第194条 
検事総長、検事長又は検事正は、司法警察職員が正当な理由がなく検察官の指示又は指揮に従わない場合において必要と認めるときは、警察官たる司法警察職員については、国家公安委員会又は都道府県公安委員会に、警察官たる者以外の司法警察職員については、その者を懲戒し又は罷免する権限を有する者に、それぞれ懲戒又は罷免の訴追をすることができる。
国家公安委員会、都道府県公安委員会又は警察官たる者以外の司法警察職員を懲戒し若しくは罷免する権限を有する者は、前項の訴追が理由のあるものと認めるときは、別に法律の定めるところにより、訴追を受けた者を懲戒し又は罷免しなければならない。
捜査許可が下ると当然捜査活動費が賄われる。突然の私の申し立てに加島主席検事の顔が怪訝そうな色を浮かべた。
「藪から棒ですね。処で松崎君、何に対してだね」
そう問い質されたが、主席検事のキラリと放たされたその瞳の奥に、ほんの少したじろい気味になるも、私は加島主席検事の検事としての正義観念を見受けられることが出来た。そして私はすかさず元N県警本部の平野刑事の現状を語り始めた。そういえば、確かあの日に主席検事が居たような…。
「成る程、その件かね」
その件…、つまり加島主席検事は既に平野刑事が失踪しているという事実を受け止めているということではないか。奇遇…、そんな私の胸中を知ってか
「何も驚くことではない。この間、県警本部長から平野刑事だったね松崎君。その平野刑事が事件に巻き込まれたので――なる連絡を受けています。しかし松崎君、それが君に如何なる関連が結びつくのかね?」
確かに主席検事の言う通りだが、私の独断で佐渡が島に確認した事実を伏せながらも私は1つの疑念を打ち明けたのは言うまでもない。
「実は加島主席検事、松山慎悟なる暴力団員に覚えはないでしょうか。これは以前私が受け取ったモノですが、失礼します」
私は平野刑事より奴の報告書のコピー並びにFAXで流れてきた私の経歴書を差し出した。それを受け取り目を通した加島主席検事の目を覗き込んでみたものの「フム」と言うや私の手に返した。
「それがどうしたのですか」
以外な返答に私は苛立ちを抑えながら、そば処『田庵』にて平野刑事から聞かされた言葉を包み隠さず語った。その中で私は主席検事の顔色を読み取ろうと試みたが、残念ながら威厳そのものを崩すことはなく、体面から計り知ることには無理であることを思い知らしめられたのだ。私はまだまだヒヨッコに過ぎない―――、老練さに立ち向かうには経験の浅計さが、如何にも無謀であるかを、悔しいが認めざるを得なかった。
「いいかね松崎君。君がいうその松山某なる暴力団員と平野刑事との事件終了後に於いて、一体どのような接点があったと言うのですか。確かに平野刑事が失踪していることは、先程にも申した通りですが、その頃その松山という男は何処に居たのですか」
「◎△刑務所に服役中です」
「ならば、その服役中の彼とどのような形で結びつけることができるのですか」
「ですが…」
それが精一杯の言葉であり、床下に視線を落とすことしかできなかった。握りしめた手は震えるも、自分の勘だけではどうすることもできないのは、現実の加島主席検事の言葉に表れている。――― 私を駆り立てるものは何であるのだろう…。あの子達から聞かされた奴に対する興味?自分の中にある正義観念と女が混ざり揺れていた。
今何故か心がざわめく。この心のざわめきは私に何を訴えようとしているのだろうか…。クシャリ…。主席検事から返された用紙から、溢れるように音が揺れた。それは今の私の心が崩れるように…。緩やかに私は加島主席検事の顔と対峙した。何かが私に重圧をかけようとしている気がしてならない。その重圧さは決してこの主席検事室のものではない。しかし、その答が見出だせず再び苛立ちを覚える。射し込んだ陽射しに主席検事の眼鏡のレンズが光った。
「松崎君、まだ判りませんか?今のままでは君は君自身に懺悔を乞うことになるだろう。私はね、そのことを危惧しているのですよ」
「どういうことでしょうか…」
「検事として良き機会であるかもしれません。はぁ…残念ですが、君にコレを見せなくてはならないとは」
そう言うと再び大きく溜め息をつくや、主席検事は机の引出しを開けるや、奥の方から郵便封筒を取り出した。国際郵便封筒である。
「拝見させて戴きます」
そう言うと、手にしていたコピー用紙を上着ポケットに捩じ込み、卓上に置かれた国際郵便封筒に手を伸ばした。私が手にしたことを確認するや、主席検事は言葉を繋いだ。
「よく見たまえ松崎君。彼等が一体誰であり、尚且何を意味し示そうとしているのかを君自身の目で確かめれば、如何に私が君を危惧しているかが判るでしょう」
封筒の切り口から数枚の写真が入っているのが伺えられる。恐る恐る指を差し入れた。これが自分自身の秘部である蜜壺であれば、どれ程歓喜に満ちることであろうか。しかし、予期せぬ事態を招くことを悟っているかのように僅かに指先が震え、背筋に冷たいものが流れた。
「……これは!?」

孤独を戯れるような儀式が終る中、
「漸く繋がりました」
と部下らしき男がノートパソコンを手渡した。
「ククク、아직 너 자신에주의 아닌가?(まだ、お前は自分に気づかないのか?)」
「ワハハハ。너 같은 깡패 조폭이이 나에게 무엇을 생각 하는가?(お前のようなチンピラヤクザが、この私に何を意見する?)」
1つの幕開けを閉じるように、その男はノートパソコンを閉じた。
「奴はどうした?」
「はい。懺悔にもがいています」
「ククク、懺悔か?クククククク」

言葉を失い震える手、主席検事に手渡された封筒の中の写真を取り出した瞬間の事である。
目を塞がれた顔は腫れわたり、耳が削がれている。
次の写真を見つめた。両手を鎖で繋がれているその指が全てが欠損しているではないか…。写真を見る限り生死の確認はとれないが、次の写真には惨たらしく胸から腹にかけ『処殺』赤く刻まれている。それを見る限り、既に生きてはいないだろう。
「………」
「松崎君、答を出すのは君ですよ」
凍りつくような感情を押し隠しはしたが、私の手の震えは止まらなかった。私は間違っていたのだろうか…。
「ウエッ…」
次の写真に再び私は吐き気を催した。男性の一物が切り取られているのか、その部分が赤黒く染まり、思わず私は目をそらした。記憶をまさぐる。
「ま…まさか主席検事、この男は…」
「君の想像通り、楊ですよ。そして次の写真を見たまえ松崎君」
人はこれ程に残忍になれるのだろうか…。想像を絶する世界。果たして私は自分が抱く正義観念に立ち向かうことが出来るのであろうか…