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第3話

VOL2
「お願いしたいです。私言ったこと秘密。松山さん怖い人。河村安男、借金ある。松山さんに脅され私と結婚しました。河村悪くないです」
この供述が河村安男を苦しめたのだろうが、勾留期限間近に河村安男は落ちたのだ。
河村安男供述
平成1△年1月△日。松山慎吾の会社事務所があるK市●□町寿マンション階下駐車場のキャデラックSTS(パール)後部座席にて偽装結婚をするように脅された。
警察での供述調書がまるで短編小説のように纏められいることに、屡々(しばしば)私は苦笑させられたものだ。私達検事の調書などたかだか2枚で終る供述であるが、まるで作家並のストーリー性があってのことであるのは十分承知している。しかし松山慎吾、奴はおいそれと認めることはしなかった。当然ながら奴は否認のまま起訴となった。そのタイミングを計ったように河村達は執行猶予として社会復帰を果たしていたのである。そう、河村安男達に於ける検事調べは私が執務したのだ。
起訴した暴力団員は、ほぼ有罪判決が下る。と言っても私のような副検事が図れる求刑は3年までであることを言っておくわ。
第1回公判状況認否。
「クク。Nice to meet you。美人な検事さんだよ」
検事席を通りすがら奴は言った。私は『キリ』としつ睨み付けた。当然でしょ。幾度となく法廷検事として公判に挑んだ中で松山のような被告人は初めてだ。けど、いくら神聖な法廷であれ、女として美人と褒め称えられて悪い気がする訳がない。やはり私は『女』なんだ。でも本当に法廷は神聖なる場所なのか?神は差し詰め『判事』を指すことになるのだろう。
「被告人は余計なことを言わないように」
山下美代子判事。
「クククク。 I seem to go to womanpower!」
狂犬を手綱するように2人の刑務官がクスリと笑った。何かを楽しんでいるのかしら?奴の言葉を聞くまいとしても、私の耳は、私の意思と関係なく奴の言葉を受け止めてしまう。
手錠を外された奴に遠慮がてらに座を勧める刑務官。暴力団員には多少気を使うものなのかしら。
公判が始まる―――。
「起訴事実。被告人松山慎吾は河村安男に金銭回収を目的として、 平成1△年1月△日。松山慎吾の会社事務所があるK市●□町寿マンション階下駐車場のキャデラックSTS(パール)後部座席にて偽装結婚をするように暴力団特有の威力を以て脅迫したものである。よって脅迫並びに強要により起訴したものである」
朗読中に肌に感じる奴の視線。でも何故だろう…粘りつくような不埒さとは違う。
「被告人は前に」山下美代子判事の言葉に奴は腰を上げた。
「クク。ところで脅迫、強要?検事さん何の裏付けを以て起訴にしたのか?クククク訊かせてくれませんかね」
氏名・住所・職業を告げたすぐに奴は言い放った。
戦いの火蓋が開けられた。
法廷。
検事として信を問う。検事は起訴して幾らの歩合制なの。だからと言って何でも起訴してしまえば法が赦さない。但し起訴した限りは戦いなの。判る?法廷で無罪判決が下ると私達は敗北なんだ。だから法廷は所謂『戦場』でもある訳。不服かしら。けど奴は楽しんでいるようにさえ感じる。いや、楽しんでいるのよ。
公判2回目。
弁護士側よりの証拠提出。陸運局より記録用紙が判事と私の許に届けられた。
「……?」
奴を見ると目が合った。ニヒルに笑みを浮かべた奴は挑発?私の身体に電流が走る。そうだわ、判った。あの目に隠るものが何であるのかが。一瞬吸い込まれていたことに気づいた私は目を伏せた。
「いいですか。キャデラックの所有者記録です。確かに松山君名義です。それでは所有期日に目を通して戴きたい。お判りですね。検事側の河村に於ける供述にある強要された期日には彼はキャデラックを所有していないのです!」
「……」
弁護士側の証拠提出。警察は何を調べていたのだ。そう言えば河村の供述に於ける証拠写真がなかった。松山の事務所駐車場からは既に消えていたという。
こんな事件は次回で結審になるところが、私は公判期日の延期を申し出るしかできなかった。屈辱感が私を押し包む。
「I will enjoy it Baby!」
退室間際の奴の言葉に、奴に圧し負かされている自分に私は震えた。そして今気づいた。奴は私を視姦していたのだ。検事としてでなく女として見られいることが屈辱でたまらなかった。
「ククク」
そう。奴が時折見せる冷めた笑いが目に宿る。私は奴を意識しはじめているの?それはない。あんなチンピラヤクザと私を比べるなんてバカバカしい。私は自分の不安を払い除けるように『いつもの私らしくない』心の中で叱咤しながら、奴こと松山の公判に検事としての意地を賭け挑むことにした。
「貴方がgameと言うのなら、この私がチェックメイトさせてあげるわ。ギャング気取りの松山君」
私は目で奴に言い放った。
「クク、ククク」
フフ、そうやって何時まで笑っていられるかしら。