第46話

Vol.5
26
2019/08/14 14:06
同時刻、横浜埠頭。 
「おえ~っ!も、もう辞めさせてくれ」
「まだ生きているじゃないですか」
ま、まるで地獄を徘徊しているようだ。何故この私をこれ程に追い詰めるのか…。そして本当に此処は日本なのか。気が狂いそうだ。いや逸そのこと狂わせたい。そしてこの地獄から解放をさせて欲しい。
「うえ、うえ~っ!」
「還不成為朋友ロ馬(ハイ ブ-チョン ウェイ ポン ヨウ マまだ仲間になりませんか)。それに、日本の人は生が好きだと思っていましたが」
その男が言った時に周囲の男達が笑った。
錆びた匂いが鼻孔を絡まるように刺激する。
楊なる男の口には既に猿轡が被されている。痛みに歪んだ顔、目蓋は腫れ上がり僅かに覗いて瞳は狂気に震えていた。
私は無理強いにより楊の異物を切らされ、その異物を口に放り込まれた時、汚物を異物と共に吐き出したのである。
「拜托nin了。我被欺騙了。請幇…幇助(バイ トゥオ ニン ラ。ウオ ベイ チ- ピエン ラ。チンバン… バン ジュ-お願いします。私は騙されました。た、助けて下さい)」
見知らぬ女が恐怖に怯えていた。
暴竜。つまり中国マフィアを指す。
イタリアだと中国人マフィアが数年前に30万人突破した。
本家マフィア追い落とし
このままでは中国人の国になってしまう。
中国マフィア・ビジネスの1つに死亡した幼児の「人肉」を使った栄養剤が、中国で生産され韓国に輸出されている。
韓国政府は、この輸入禁止を発表し国際的な「事件」に発展している。
日本人・政府が何も知らない、「中国人肉・市場」の実態である。
「お前達はマフィアなのか…」
「我們暴辰也連共産党員也没有。給(対)某丈夫气概的梦試着賭只是(ウオ メン バオ チェン イエ リエン ゴン チャン ダン ユェン イエ メイ ヨウ。ゲイ (ドゥイ) モウ ジャン フ チ- ガイ ダモン シ- ジャ ドゥ- ジ- シ-私達は暴竜でも共産党員でもない。ある男達の夢に賭けて見ただけさ)つまり私達の平安たる居場所を築きたいだけだ」
「し、しかし、お前達のやっていることは?」
「イ尓們日本的政府很坏地指摘着中国人,朝鮮人全部。是不是錯了。那个証明我們做着這个国家的暴辰狩獵。(ニ- メン リ- ベンダ ジョン フ- ヘン ホアイ ディ- ジ- ジャイ ジャ ジョン グオ レン,チャオ シエン レン チュエン ブ-。シ- ブ- シ- ガオ ツオ ラ。ナ- ガ ジョン ミン ウオ メン ズオ ジャ ジョ- ガ グオ ジア ダ バオ チェン ショウ リエ。)」
「日本語で言ってくれ」
「お前達日本の政府は中国人、朝鮮人全てを悪く決めつけている。だが間違っている。その証明に我々はこの国の暴竜狩りをしている」
暴竜、つまり中国マフィアを排除しようとしているというのか?何の為に…。なら、日本の暴力団をどう思っているというのか…
平成14年10月 アジア最大の繁華街・歌舞伎町ですさまじい嵐が吹き荒れている。暴力団組長が中国人のヒットマンに射殺され、中国人が経営する飲食店には発煙筒が投げ込まれ、異臭騒ぎが起きている。10月3日に路上で殺された残留孤児3世の男性も、抗争に巻き込まれた疑いが強い。 事情通によると、ことの発端は埼玉県で相次いでいる金庫窃盗団の仲間割れのようだ。盗んだ金を運転手役だった暴力団員が持ち逃げし、怒った中国人マフィアが報復に出たというのだ。 暴力団員は、関東侠勇連合会系の組員。傘下の組長と幹部がけん銃で撃たれ、系列の組員たちが総出で、中国人の店を狙い始めたという。 歌舞伎町は売春や賭博などを行っている中国人のクラブや飲食店、風俗店が数百店も密集している。片言の客引きも多い。さらにそうした店には中国人の組織が用心棒についている。 狭い地域に200以上の事務所がひしめく暴力団の側も、気の荒い中国人マフィアとのトラブルは避けてきた。だが、極限まで張りつめた緊張は、いつかは爆発する。 その時がついに訪れたのかもしれない。 暴力団の側は「歌舞伎町の中国人を一人残ら ず追い出してみせる」と話している。事実、警察に届け出がない傷害事件が頻発するため、最近は中国人の客引きが姿を消し、休業に追い込まれる店鋪も出ている。 だが、新宿の中国人たちはしたたかである。 1994年に北京勢力VS上海勢力の対立抗争が起き、警視庁が重い腰を上げた時には、彼らはいったん帰国したり、地方都市に散ったりした。しかし、数年後には歌舞伎町に舞い戻っている。そして8年後の今、この街にさらに強固な地盤を築き上げ、ついには暴力団に対抗できる勢力にまで膨張したのである。 それにしても、思い出すのは昨年夏、44人の死者を出した歌舞伎町の雑居ビル火災の悪夢だ。あの事件も放火の可能性が強い。 暴力団と中国人マフィアとの争いに、罪のない人が巻き込まれることがないことを祈るばかりだ。
また利権争いに於いても外国勢の所謂マフィアがこの日本に攻め込んできているのだ。
例えば――――。
東京オリンピック誘致に見る、兵器密輸マフィアの暗躍として、ロシアの支配者プーチンは、エリツィン元大統領が、その権力の後継者として、プーチンを「指名」する事によって「皇帝権力の継承」を実現し、現在の権力者の地位に就任した。
エリツィンはソ連共産党時代、その余りの急進的な資本主義導入路線の考え方を権力者に嫌悪され、あらゆる役職から追放され、事実上「自宅軟禁」の扱いを受けた時期があった。政治的な友人達が、次々とエリツィンを見捨てて行く中で、唯一、プーチンだけはエリツィンと共に「自宅軟禁」に「同伴」し続けた。失意のエリツィンが、「これからは農業をやりながら、生計を立てて行く」と宣言し、政治の世界と絶縁せざるを得ない状況に追い込まれ、エリツィン自身がクワを持ち畑を耕し始めた時も、プーチンはエリツィンと一緒に泥まみれになり農作業を行なった。
プーチンは絶対にボスを見捨てなかった。
そのためエリツィンがロシア大統領となった時、プーチンは側近中の側近として絶大な信用を得、後継者としてロシアの権力者の地位を継承した。
このエリツィンが大統領に就任した時の大統領選挙の参謀として、その選挙を「仕切った」のが、ロシアン・マフィアの大ボスの1人「シャクロ」である。
プーチンがエリツィンの大統領選挙の実務を「仕切り」、選挙のノウハウは「シャクロ」が知恵袋となり、政敵を威迫等の手段で抑え込んだ。ロシアン・マフィアの「シャクロ」は、プーチンの政界での竹馬の友となった。
現在ロシアン・マフィア「シャクロ一家」は、イスラエルに本拠地を移し、プーチンの代理人となり、2014年のロシアのソチ・オリンピック会場の建設工事受注の「窓口」として、世界各国のゼネコンとの交渉に当っている。
「シャクロ」は建設工事屋としては別名の「カラショフ」を名乗っているが、オリンピック会場建設のためヨーロッパ等からロシアに搬入される建設資材を運搬する車両は、帰路に決して荷台を「空にして」帰っては来ない。
そこには密売されるロシア製兵器が大量に「積載」されている。
このカラショフのロシア製兵器の密売のビジネス・パートナーが、4年に1度のオリンピック開催地を決定する「国際オリンピック委員会IOC」である。IOCの本業が、オリンピックの開催などでは毛頭無く、兵器の密売である事は「常識」である。
かつて派閥抗争の激しかった1990年代のロシアン・マフィア業界で、「金で殺人を請け負っていたシャクロ」が、現在では、ドバイで、プーチンのメッセンジャー=オリンピック会場建設工事の交渉役としてスーツに身を包み、携帯電話でIOC幹部と会話し、「商談」を進めている。「ビジネスマンになって、やっと偽名のシャクロではなく、本名のカラショフを名乗れるようになった」。
ドバイで、ロシアン・マフィアの大ボスの1人「シャクロ」が、オリンピックをめぐる「建設利権」の交渉相手=パートナーとしているのが、米軍の燃料・食糧・水・兵器・弾薬の補給・運搬=兵站部を担当してきたハリバートン社である。
石原・元都知事と比較し、猪瀬・新知事は、必ずしも政治的なタカ派ではなく尖閣をめぐり強硬な発言を繰り返してはいない。石原の尖閣発言によって日本と中国間の緊張が高まり、日本による米国からの迎撃ミサイルの購入に拍車がかかった事はシャクロ等のオリンピック=建設利権=兵器ビジネスマンにとっては好材料であった。猪瀬は、この好材料を提供してはいない。
「当然」、猪瀬の「非協力」に対するイヤガラセは画策される事になる。
オリンピックは「聖なるスポーツの祭典」等ではなく、国際的な政治経済の利権争奪戦争の場である。
再びN県。 
「それじゃ君達は、ラーメンを食べて別れただけなの?」
慎悟さんはラーメンを食べ終えた俺等を確認すると「よし、次行こうか」と立ち上がると、俺等は「ご馳走様」と礼を述べ席を立ち上がった。
「何処へ行くんですか」
「ククク、飲みに行くか」
「キャバクラですか」
マー君が慎悟さんの言葉にはしゃぐように答たんや。
「ククク、オバチャンの店。お前達にキャバクラは早すぎる」
「え~、そんな…」
と笑いながら俺等を構わず「車頼んでおきます」
と言って歩き出した。俺等はC3を見やりながら
「俺等のバイクも頼んでおきます」
と断り、追いかけるように慎悟さんの後を歩いた。
「やっぱり飲みに連れて行かれたんだ」
「ところが、行った先はホンマにオバチャンの店やったんや」
この子達は人間的感性に於いては松山慎悟という良き理解者を得たかもしれない。しかし警察関係に於いて松山慎悟は逆の感情を抱いている。
何時だったろうか、赤井某が逮捕されたが、直ぐ様警察から連絡が入った。そうだ、その時も確かに平野刑事だった筈だ。
「松崎検事、赤井の事件をこの度は不起訴に願いたいのですが」
「それは如何なることでしょうか」
「実は私供のSなのですよ。事件も有印私文書偽造としては対した事件でないですか。ここは1つ貸しをということでお願い致します」
この様なことが現実に行われている。犯罪情報を得る為にSが犯した罪を握りしめる。つまり隠滅である。罪を裁く側が罪を隠滅するのであるから 当然法に触れる行為であるが、正義の為と嘯きこれが罷り通るのだから、この法界にメスを入れるべきだと人権の擁立を図る団体が動き出しているのは確かである。地域性の問題もあるのだろうがSの活動費が所謂警察機密資金である。ならば、その機密資金の出所は果たして…。警察=松山慎悟…、何かがあるに違いない。ならば私は今それ等に関わろうとしているのかもしれない。
犯罪被害者は刑事裁判でいかに闘うか。本来私が言える立場でないかもしれないが、私自身も疑念を感じるところがある。
検察審査会、犯罪被害者等給付金支給制度、犯罪被害者保護法の制定・刑事訴訟法の改正
(1)問題の所在
*「忘れられた人々」
何故憲法は被害者の権利に対する明確な規定を持たないのか?
何故刑事訴訟法は被害者に対して無頓着なのか?
    
(2)従来の被害者の立場
捜査段階は参考人であり、公判段階は証人。
告訴権者(230条、260条)
検察審査会 検察官が不起訴とした事件について、被害者・告発人等から請求。
付審判の請求 職権濫用罪について、検察官の不起訴処分に不服がある場合に、告訴人・告発人から請求(262条以下)。
犯罪被害者等給付金支給(法)制度(1980年制定、2001年改正)
(3)警察における被害者への取り組み
被害者の手引きの作成・配布。
被害者連絡制度 
地域警察官による被害者訪問・連絡活動
各種相談窓口の設置 
カウンセリング体制の整備
(4)検察における被害者への取り組み
犯罪被害者通知制度(1999年から)
不起訴記録の開示
被害者支援員の配置
被害者ホットライン 
(5)犯罪被害者保護法の制定・刑事訴訟法の改正(2000年5月公布)  
(1)犯罪被害者保護法(犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律)
被害者等の優先的傍聴
記録の閲覧・謄写 
刑事上の和解 被害者と被告人との示談が公判調書に記載された場合、損害賠償を取り立てる強制執行が可能になる。
(2)刑事訴訟法の改正
性犯罪の告訴期間の撤廃(235条)
被害者の意見陳述制度(292条の2)
証人への付き添い(157条の2)
証人の遮蔽(157条の3)
ビデオリング方式(157条の4)
(6)被害者の権利に向けて
全国被害者支援ネットワーク(1998年)。1999年、犯罪被害者の権利宣言。
公正な処遇を受ける権利 犯罪被害者は、公正でかつ個人の尊厳に配慮した処遇を受けるべきである。
●情報を提供される権利 犯罪被害者は、刑事手続および保護手続に関する情報、被害の回復に関する諸制度に関する情報の提供を受けることができる。
●被害回復の権利 犯罪被害者は、受けた被害について迅速かつ適切な回復を求めることができる。
●被害者の意見表明権 犯罪被害者は、司法手続、保護手続の中で意見を述べることができる。
●支援を受ける権利 犯罪被害者は、医療的、経済的、精神的およびその他の社会生活上の支援を受けることができる。
●再被害から守られる権利 犯罪被害者は、再被害の脅威から守られるべきである。
●平穏かつ安全に生活する権利 犯罪被害者は被害を受けたことから起こるプライバシー侵害からまもられ、平穏かつ安全な生活を保障されるべきである。
刑事手続における被害者のかかわり方については、
○法務省ホームページ(刑事局「犯罪被害者の方々へ」)
○「全国交通事故遺族の会」ホームページ
などが大変参考になります。

ところで俺等が連れて行ってもらった店というのが、アハハ、ホンマにオバチャン1人のスナック。
「まぁ、いらっしゃい慎ちゃん」
「ママ久し振り。元気そうだ」
「慎ちゃんの顔見たらいっぺんに元気になったわ。慎ちゃんは何時ものでいいわね。ところでこの子達、どうしたのよ」
カウンターに腰を降ろした俺等にオバチャンが、いやママがオシボリを手渡してくれた。
俺等のような落ちこぼれたガキが求めるものは名誉なんかじゃない。家庭環境で見失われた温もりを1番求めていたのやないかな。世の中は平和かもしれない。けど、よく言われるのは、どん底を這うようなもがきを知らないから、この国が低迷した時に不慣れな苦しみにさ迷い、俺等は途方にくれるだろうと。この国はぶっ壊れるかもしれないという。そして再び甦る時は世界のトップに躍り出ることになるだろうと。まだ俺等には判らないけど、この国の上流層はスイスに移住しつつあるんやと。その答が敢えてこの国の解体を目論んでのことと、所謂人間環境の整備だそうやねん。けど、俺等はそんな世情の縺れより、現実の温もりを求めていた。
「アンタ等はコーラでいいわね」
慎悟さんの前にジャック・ダニエルのロックグラスが置かれ、慎悟さんはまるでアイスを玩ぶように人差し指を絡めていた。
「いやママ、俺等も一緒のやつを」
とマー君。慎悟さんは笑っていた。チャームと言うのだろうか、小さな駕籠皿に盛られたナッツ類が出された。
「いいのかね、慎ちゃん」
「ククク」
「アタシは知らないからね」
とママは笑いながらアイスピックで砕いたアイスをグラスに容れジャック・ダニエルを注ぎ俺等に差し出してくれたんや。
「慎悟さん、頂きます」
俺等は各々が声をかけ、グラスを口に運んだ。決して旨いなんて思わなかった。けど香ばしさは好きになれる気がした。
ガキの俺等が感じたのは、人を好きになるのに何の理由があれば大人は納得するのだろうかという疑念。確かに俺等はカッコ良さに憧れを抱き始める。そして、何時しか優しさに餓えを満たされることを知る。警察が俺等に更生させる思いは本気の思い遣りであると思うねん。けど、その思いは警察だけでないことも確かやねん。
「それじゃ君達は今社会人として警察関係をどのように捕らえている訳?」
「どうやろケンちゃん」
「そうやなぁ、全部がそうやないけどズルくなったんと違うかな」
確かにそのように捕らわれても仕方がないと私も思う。その1つが学歴コンプレックスだと窺えられる。安い給与を正義というまやかしで誤魔化され、故に有ってはならない物事を仕出かしてしまう。それが現実の社会背景かもしれない。
「それで結局はお酒を飲んでしまったんだ」
「ま、お姉さん、成り行き」
「そうそう」
屈託のない心の現れが笑みとして溢れる。それを守ってやることが本当の大人の務めであるかもしれない。しかし、それは現実社会の至難の業であることも言えるだろう…

ゴホ、ゴホッ「すみません」胃が蒸し返すように熱く込み上げた。
「クク、いいさ、俺も最初はそうだった」
どのように言えばいいかな…、ガキの俺等が感じたのは純粋な儀式と言えるかも。同じものを飲むことで慎悟さんを身近に感じる思いがあったのかもしれない。
「ちょっとアンタ達、大丈夫?慎ちゃんとどういう関係か知らんけど、アンタ達はどこまで慎ちゃんを知っている訳?まさかコレって知りながら来たんやろね」
ママは煙草を吸いながら右頬に左手を立て添えた。ま、まさか、マー君は
ゲホッと吐き出してしまったんや。
「ククク、ママ、余りからかうと本気にしてしまうじゃないか、クククク」
俺なんか一瞬「ヤバ…」と腰を浮かし逃げ出す準備を仕掛けたほどやから、ママの言い種は冗談に聞こえなかった。慎悟さんが黙ったままなら俺等はホンマに逃げ出していたかもしれない。
「余り無理するな。コーラでも飲めばいい。処で事務所には2度と寄るんじゃない」
「え~っ、何でですか」
慎悟さんの言葉にマー君が聞き返したんや。すると慎悟さんは言ったんや
「お前等ヤクザになる訳じゃないだろ。もっと見るべきものがあると俺は思うがな」
「………」俺等は何も言えなかったんや、実際に。そんな俺等を見やりながら
「ククク、Boys, be ambitious。判るよな、少年よ、大志を抱けと言うことだ」
正直言って、慎悟さんの口からそんな言葉が出るとは思っていなかった。その時マー君が言ったんや
「じゃ、何故慎悟さんはヤクザをしているんですか」
と。
「それじゃ聞くが、今のお前達はどうなんだ?家のことは知らんが、法は別にして何一つ縛れることなく生きているのではないか。特に人に縛られることなくな。そのような生活の中で敢えて人に縛られることはないと俺は思うがな」
「けど、それじゃ俺等の質問の答えになっていませんよ」
「ククク、俺か?。敢えて言えば、時間潰しに付き合わされているかな、ククク」
そして私は思わず口を挟んだ。
「ちょっと待ってケンちゃん。あの人がいう時間潰しに付き合わされているとはどういうことなの?つまり本当の自分の居場所でないということかしら…」
「そんなこと俺等に聞かれても判らんよな、マー君」
戸惑う2人、考えてみれば当然のことだと言える。無数に輝く星空を見上げ、人間の感情の行着く先は何処なんだろうか…と考えてしまった。
「ま、俺等はガキだから全部の意味を飲み込めた訳やないけど、確か慎悟さんはこう言ってたなぁ」
とマー君。グビリと缶ビールを煽ると、懐かしさをまさぐるように再び語り出した。
「いいか、人は何故に人を縛ろうとするのか。それはククク、権力欲の表示と逆に己に対する限界の訪れに怯えているからだ。クク、そのような中で魂が共鳴し合うことはない。それにな、お前達にはまだまだ長い道程(のり)があり時間がある。色んな選択儀が残されている筈だ」
「けど…」
俺等にはまだ慎悟さんにしがみつきたかった。けど、その思いを暖かく押し止めてくれたのが次の言葉やった。
「それよりもお前達は本当の愛を感じろ。そして、どんな場所でもいい、自分だけのパラダイスを見つけることだ」
「ちょっと難しいけど…、その…もし俺等にどうしてもそれが見つからなかったら、どうすれば…」
ケンちゃんが涙を浮かべながら言葉を返した。本当は俺等を突き放しているかもしれないという思いが心に過ったんや。
「で、彼は何て答えた訳?」
少年達の思いを打ち砕いたのであろうか…。
「どうしても行き場がないと感じた時には、俺の所に来い」
私は松山慎悟の意外性に戸惑いを感じながらポツリと言葉が洩れた。
「まるで星だわ」
と。

「えっ?」私の呟きが聞こえたのか、2人は同時に私の顔を見つめた。
「ごめんごめん、何でもないの。それよりもその後どうなった訳?」
「うん。途中慎悟さんの携帯が鳴ってん。ほんの僅かの対応に急用が出来たと言って先に出て行ったよな、ケンちゃん」
そうなんや、酔いを覚ましてから帰るように言われ、慎悟さんは笑いながら
「Boys, be ambitious」
と言って扉の向こう側に消えて行ったんや。残った俺等にママの作ったおにぎりと味噌汁をご馳走になった。
「アンタ達には彼女がいるんか?おにぎりは愛情のこもりかたで味が変わるものなんやで」
何を言おうとしているのやろか…。そう言えば俺等はコンビニのおにぎりに慣れちまったけど、「あっ!!」俺等はいつの間にか母親が握ったおにぎりの味をすっかり忘れていたのに気づいてん。
「そうなんだ。君達にとっては、イイ出逢いであったかもしれないね」
一体私は奴の何を見出だそうとしていたのだろうか…。そして私自身が何に捕らわれているのだろうか…。結局それを見出だすことが出来なかった。そう、僅かな時間で真実を捕らえるには無理がある。時計を見やると新たな1日が始まり出していた。
「あ、もうこんな時間。ごめんね遅くまで。そして色々ありがとう。そう言えば君達車なんでしょ。しっかり酔いを覚ましてから帰るのよ」
「ちぇっ、慎悟さんと同じことを言ってやんの。アハハハ」
膝を立て直した私は
「じゃあね君達。Boys, beambitious」
と言い手を振り歩き出したんだ。背中に彼等の屈託ない笑い声を浴びながら「素敵なお姉さん、またな」と言葉が追いかけてきた。素敵なお姉さんか…ヒールの音が私に問い掛けているようにさえ聴こえる。

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