第54話

Vol.2
59
2019/09/10 05:42
あなた

同時刻――、ああん、気持ちいい。そう、そこを優しく。あ、あ~ん、ハァハァ…イイ―――。 
「まさか…」
ヴィーン。ああ~ん、ダメダメ。気持ちいい、ああん、気持ちいいの。お願い、もっと弄って―――、ヴィーン。いやいや、そんな処を舐めちゃ。ああ、ああん、気持ちがいい。気持ちがいいの、あふん…。
「………」
「キャハハ、何これ、慎ちゃん。キャハハハ」
パソコンから流れる明らかに私自身の恥声に、私は顔を背けた。高らかに笑い指差す彼女が奴に尋ねている。辞めて辞めて!!心で叫ぶ声が爆発したように、堪らなく私は奴に向かって喚(わめ)き叫んでいた。
「辞めて!!お願いだから、それを止めて頂戴!!」
「クククク」
小さなバイブノイズに混ざり合い、尚も続く。
ああん、入れて入れて。お願いだから、あふん…ああん、いきそうなの。ハァハァ…お願いよ、早く入れて―――。
耳を塞ぎたい。なのに内なる私が目覚めたように躰に熱が帯びる。
ハァハァ…もうダメ。いやいや、あふん、ああん、イクイク壊れるよ、ああん、ああ~ん慎悟。
「お願いだから、もう辞めてえ!!」
羞恥に躰が震えだす。何故?憤り……。それもあるかもしれないが、自分の羞恥さを曝け出されたことによる一人の女としての恥ずかしさによるものであることを諭した。
「キャハハハ、何なの検事さん。独りエッチしていたんだキャハハ。でもね、その気持ちはキャハ、同じ女として判るよ。キャハハ」
私を指差す彼女は大袈裟に笑いながら
「イ・ン・ラ・ン。キャハ、キャハハハ」
と止めを刺すような言葉に私は心の中で叫んでいた。違うわ。女なら普通じゃないの!!それでも自身の秘め事の甘声が奴の前で曝け出されたことに恥ずかしさよりも、底意地の悪さを感じてならなかった。
しょうこ…と呼ばれた彼女の胸に輝く薔薇をモチーフしたイエローダイヤモンド。奴からのプレゼントだろうか?ふたりは恋人同士なのだろうか…
いつしか奴に惑わされ、今目の前で私を見据える奴の瞳が冷たく光を帯びていた。ああ、私は何て愚かな女であろうか。
「検事さん、貴女の生い立ちは如何なるものであったろうか」
奴はそう言うと、まるで朗読するように『家なき子レミ』の一小節を言葉にした。
三人が手を組んでいのりはじめたとき!ドアがバタンとあいて、ビュ~ッと強い風がふきこんだ。
フッとランプの明かりがきえた。レミが息をのんだとき、ドアのところに大きな黒い影がヌッとあらわれた。レミとナナが「ヒッ」とおびえた声をあげた。
「ジェローム!」
お母さんがとびつくように、その人にかけよった。
「ああ、何年ぶりかしら…!けがはどう!?」
その人は片足をひきずりながら、お母さんをおしのけるように部屋にはいってきた。
「お父さ…ん?」
この人がずうっと会いたいと思っていたお父さんなの?
信じられないというように、レミはその人を見あげた。ジェロームの目がギラリと光った。
「お前はだれだ?レミかお前!どうしてここにいる!!」
もっていたつえを、グッとレミののどもとにつきつけた。
どうしてって…わたし!?レミはこわくて、声も出ない。
「やめて!きょうはレミのたんじょう日なのよ!」
お母さんがジェロームとレミのあいだにわってはいった。
「なにがたんじょう日だ。たしかにナナはおれとお前の子だが、レミはちがう。道でひろった、ただのすて子じゃねえか」
うそ!
レミの目が大きく見開いた。

「ククク」
「貴方は何を言いたい訳なの。それよりもお願い、拘束具をほどいて頂戴……」
「何故俺を詮索する?何を知ろうとしているんだ、松崎検事?正義か?」
「………」
「何故こうして逢えたのか。ククク、既にご存知だと思うが、松崎検事、貴女にゲーム参加のチケットを授けよう。参加するもよし、拒むも貴女次第だ」
「ゲーム……?」
「検事ならお分かりだと思うが、この世の中で何が罪であるのか?言い替えれば正義論者が罪を作りあげることもある。自分の不都合を覆い隠す為に」奴がそう言うと、彼女に指示を与え、パイプ製の折り畳み式の椅子を持ってこさせ腰を降ろした。
「ククク。その前にコイツの事を説明しておこうか」
そう言うや奴は彼女が火を点けた煙草を受け取り、深く息を吸い込んだ。
「彼女は彰子という現役の警察官であることは、ククク、既にお気づきと思うが、その前に関西山神会山岡会長のご息女でもある」
「えっ、慎ちゃん知っていたんだ…」
まさか、あの関西山神会の……
「ククク彰子、お前はもっと大切なことを知っていない」
「何?」
「慌てるな彰子。何れ知るときがある」
彼女は奴からの離れるとこの私に寄り添い、私の胸に指をいやらしく這わせながら奴に即され話し始めた。

お母さん、お母さん、やさしいうででだきしめて
ひとりぼっちでねむれぬ夜も こころはふるさと、わたしのお母さん…

レミの歌声が私の耳奥に流れていた。

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